鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 その翌週、俺は赤いネクタイを締めていた。
 ゲン担ぎだ。商売人というのは信心深い人間が多い。
 その証拠に、世界的車メーカーしかり、最大手食品会社しかり、敷地内に神社を勧請している日本企業は数多ある。
 俺はそう信心深いほうではないけれど、こういったちょっとしたジンクスはこっそりと持っていた。商売とはときに人智が及ばない瞬間が必ずある。まるで嵐の大海原に投げ込まれたかのような瞬間が――そんなとき、一緒にそばにいてくれる存在がどれだけ心強いか、得難いものだと実感したか。

 ……そんなことを、俺は心春のご両親に熱弁していた。

「というわけです。俺にとって心春さんは唯一無二の存在なんです。急なことで驚かれたとは思いますが、どうか結婚のお許しをいただきたく」

 心春の実家のリビング。俺はそこで心春のご両親に深々と頭を下げていた。

「そんな、本城社長。顔を上げてください」

 お義父さんの慌てた声に顔を上げる。

「よかったな、心春。こんなに想ってくれる人に巡りあ……心春?」

 お義父さんの声に横にいるはずの心春を見ると、無言で唇を噛み滂沱していた。
 お義父さんは「なんだその男泣きみたいな泣き方……」と困った顔をしている。

「心春」

 太ももの上できゅっと握られていた手に触れると、心春はこっちを向き「れ、玲司さん」と泣きぬれた声で俺を呼んだ。

「そ、そんなふうに言ってくださるなんて、もうここで死んでも悔いはないです……!」
「なにを言っているんだ。一生そばにいてくれるんだろう?」

 俺が聞くと、彼女は一生懸命にこくこくと頷く。その輝く笑顔が愛くるしくてつい見つめてしまっていると、お義母さんが「あらあ仲良いのねえ」とからかうように笑った。
 心春が落ち着いたころ、お義母さんが紅茶を淹れてくれて頭を下げる。手土産のケーキはかなり喜ばれてほっと息をついた。こっそりご両親の好みをリサーチしておいてよかった。

「ところで、式はいつごろなの?」
「うーん、できるだけ早くとは思ってるんだけど」

 心春の敬語以外の会話はかなりレアだ。すごくかわいい。はやく俺もここまで気を許してもらえるようにならないと。

「そういえば、結婚式であれはしてもらうの?」
「あれ、とは?」

 心春より速く俺は反応し、お義母さんを見つめる。心春が「はっ」と慌てたようにお義母さんを見つめる。

「お、お母さん。言わないで」
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