鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「どうして?とっても素敵だしロマンチックじゃない。あなた大学の卒業旅行でみかけて以来、結婚式は絶対あんなふうにしてもらうんだって」
「いいから!」

 あわあわと半ば席を立ちかけている心春に目をやりつつ、腕を組み記憶を探った。

「確か君の卒業旅行はヨーロッパに行ったと言っていたな」
「あ、あの、激安パッケージツアーで……」
「行先は確か、オーストリア、スロベニア」
「その話をしたのは一年以上前では?さすが玲司さん……」

 うっとりと俺を見る彼女の頭を撫で、よくよく記憶を思い返す。

「両国ともに古い教会が多い国だな。結婚式に遭遇してもなにもおかしくはない。が……当時大学生だった君の印象に強く残り、なおかつ『あんなふうにしてもらう』必要性のある結婚式」

 軽く目を閉じ、それからまた開いて心春の顔を覗き込んだ。

「アルプスの瞳?」

 びくっと心春が肩を揺らす。どうやら正解のようだ。

「スロベニアのブレッド湖だな。澄んだエメラルドグリーンで、アルプスの瞳とも言われている」
「でも、でも、玲司さん」
「湖に浮かぶ島には、教会が建てられている。階段の数は全部で九十八。結婚式で新郎が新婦を抱きかかえて上るのが慣習になっている」

 白亜の教会に向かい、新郎に抱きかかえられるウエディングドレス姿の新婦は、確かに綺麗だっただろうな。そして心春もきっと綺麗だろう。

「わかった。任せてくれ」
「そんな」

 心春は悲鳴のように言う。

「九十八段ですよ。しかも海外です」
「なにか問題があるのか?」

 俺が言い切ると、心春は不思議そうにぽかんとした。なんで私なんかのために、と書いてある。それは俺が君を愛しているからだよ、心春。俺はこっそりほくそえんだ。

 完全に逃げられないよう落として、そして俺からの恋情でがんじがらめにしてやるからな。




 そんなわけで、翌七月の半ば、俺は心春を抱えて教会に向かって階段を上り進めていた。
 横抱きに、いわゆる「お姫様抱っこ」されている心春はこの上なく美しかった。
 シンプルなマーメイドラインのドレスが、夏のヨーロッパの爽やかな風に揺れる。俺は白のタキシードと革靴だ。『重いですって! 大丈夫ですって!』という心春をひょいと抱え上げ、ここまで歩いてきたのだ。
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