鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「とんでもない。それどころか旅行できてありがたいよ。……ていうか、玲司くん、いつまで心春ちゃんお姫様抱っこしているんですか」

 呆れたような彼女の声に、軽くため息をついてから心春を地面に下ろした。

「離したくなかったんだ」

 そっと耳元で小さく言えば、心春はさきほどよりも頬を赤くする。
 いまからふたりでの写真撮影のため、ゲストが先に教会に入っていく。スタッフに化粧直しをされている心春を見つめていると、ふと心春も視線をこちらに向ける。ばちりと交差する視線に、どくんと心臓が大きく拍動する。心春は目を瞬き、それから頬をみるみると赤くした。

「な、なにか変でしょうか……っ」
「さっきから綺麗だと伝えているんだがな」

 心春が目を瞬き赤い顔のまま少し拗ねた顔をする。揶揄われてるとでも思っているのか。
 化粧直しが終わった心春と並び、カメラに視線を向ける。カメラマンは現地スタッフのため、心春には俺が通訳しながらの撮影となった。

「本当にすばらしいです……!日英仏だけでなくスロベニア語まで?」

 おおよそだがスロベニア語を聞き取る俺を見て、心春がはしゃぐ。

「米国留学中、寮のルームメイトがスロベニア人だったんだ」

 話すのは難しいが、簡単な指示を聞き取るくらいはできる──と、俺は心春を抱き上げた。心春が驚いて「わ」と目を瞬いた。

「抱き上げてキスをしてくれと」
「はあ、なるほ……キス?」

 ぽかんとする心春の額にキスを落とし、そのまま耳元で囁く。カメラマンがシャッターを切る音がした。

「心春。今から俺たちは教会で愛を誓うわけなのだけど」
「は、はい」

 耳殻が真っ赤だ。
 初心な反応に心臓がときめく。……この年になってときめくも何もないとは思う。
 だが、心春を見ていると頻繁に湧き上がる感情がある。その感情は、やはり「ときめく」以外に当てはまりそうにない。
 とにかく俺は年甲斐もなく初恋のようにときめきながら心春の耳元で小さく言葉を紡ぎ続ける。

「俺はそう信心深い方じゃない。だから」

 すっ、と呼吸をひとつ置いて続ける。

「だから、俺は俺の矜持にかけて誓う。──君を死ぬまで幸せにする。なにがあっても手放さない」

 腕の中で、心春が小さくみじろいだ。
 耳元から顔を離し、心春の顔をまじまじと見つめる。頬が血の色をすっかり透かして、初心に真っ赤に染められていた。

「ふ、かわいい」
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