鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 思わず漏らした本音に、心春が眉を下げる。そうして潤んだ瞳で俺を見つめ、口を開く。

「わ、私も玲司さんを幸せにしたいです」
「俺も?」
「はい」

 心春はにっこりと口角をかわいらしく上げた。

「玲司さんの幸福抜きに、私の幸せはあり得ませんから」
「──心春」
「ですので」

 心春は真っ赤な頬で、しかし穏やかに嫋やかに微笑み言葉を続けた。

「一緒に幸せになってくださいませんか?」
「──ありがとう」

 思わず告げた本心からの感謝に、心春はとても不思議そうに柔らかく目を細めた。





 披露宴代わりの親族だけのホテルでの食事会のあと、俺たちは同じホテルの最上階へ向かった。この階にあるスイートルームを予約していた。観光シーズンにも関わらず押さえることができたのは僥倖としか言いようがない。
 ウエディングドレス姿の心春が、そわそわとリビングのソファに座る。
 全体的にアンティークであつらえられた、重厚で落ち着きのある調度だった。
 欧米の多くのホテルがそうであるように、照明は日本ほど明るくない。

 ひどく静かな夜だった。窓からはやけにまぶしい月が見えている。

「っあ、あの、それにしても」

 心春はぱっと顔を上げ、明るく言った。

「さすがです」
「なにがだ?」

 ソファの横に腰かけながら聞けば、心春は柔らかに微笑む。

「その、恋愛結婚のふり……といいますか。式でも披露宴でも、私たちが相思相愛だとすっかり皆さん信じ込んでらっしゃいました」

 ふむ、と俺は小さく目を瞠る。

 それにしても、以前も思ったけれど心春がここまで自分が俺の恋愛対象に入っていないと思い込むのには、やはりなにか理由があるのだろう。

 こんなにわかりやすく求愛し続けているというのに……まあ、好きという言葉を避けている俺にも原因があるか。
 ……いつか自分から話してくれたらいいと思う。
 そのときには、すっかり俺に落ちていてもらう予定だけれど。
 そう考えながら彼女の髪を柔らかく撫で、微笑んだ。

「疲れているだろう? もうシャワーを浴びて寝よう」

 窓の外はすっかりと暗い。
 朝がくれば、美しい湖とその向こうに広がるアルプスが眺められるはずだ。
 おずおずと頷く心春を見つめ、ふと気がついて「ああ」と微笑んだ。

「ドレス、ひとりでは脱げないよな」
「っえ、あの、ええとっ」

 ばっ、と心春は立ち上がり首を振る。

「手伝うよ」
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