鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 私は首を傾げ、それからぐっと腹に力をこめた。
 そうか、そうだったのか、玲司さんは新婚らしいことがしたかったのか……!

「そういうことなら致し方ありません……! 不肖この森下、全身全霊で『あーんして』を遂行させていただきます!」

 思い切ってサンドイッチを口元に運ぶ私に、口を開きつつ玲司さんは苦笑する。

「ん、なんかまた誤解しているな」
「誤解とは?」

 ぱくり、と玲司さんがサンドイッチを口にする。
 つい口元を凝視してしまった。綺麗な歯並びに、薄すぎず厚すぎもしない唇。
 なんて上品にサンドイッチを咀嚼するのだろう。

 照れるのも忘れて推しが目の前で食事をしているのを凝視してしまっていると、玲司さんが「君とだからだぞ」と念を押してくる。

「はっ、ええと、な、なにがでしょうか」
「君とだから新婚らしいことがしたいんだ」
「……私、と?」
「そう、君と」

 真っ直ぐな瞳に目を逸らした。それは、一体どういう意味なんだろう。
 ただひとつわかるのは、心臓が鼓膜のそばにあるのではと思ってしまうくらい、鼓動がうるさいということだけだった。




 そんな遅めの朝食後、ブレッド湖の遊歩道やホテルの庭を散策したり、のんびりお茶をして過ごす。
 湖が見えるカフェのテラスでケーキをいただいていると、ふと玲司さんが口を開いた。
 テラスは貸し切りにしてあって、聞こえるのは風に乗って聞こえてくる観光客の喧噪のほかは、湖の波音と時折啼く鳥の声くらいだ。
 落ち着いた雰囲気についついリラックスして、あんなに寝たのにまた眠くなってくる。

「ところで新婚旅行はどこにいきたい?」

 ごくん、と濃厚なチョコレートケーキを飲みこんだ。ん?

「玲司さん。申し訳ありません、私の認識と違いましたら申し訳ないのですが、この旅行は新婚旅行ではないのですか?」

 ざあ、と夏の欧州の爽やかな風が吹く。
 碧い湖面にさざ波が起きて、きらきらと陽の光を反射した。

「明日には帰国するんだぞ? もっとゆっくりしたい」

 私は納得して頷いた。帰国してすぐに会議と視察が目白押しになっていた。
 玲司さんお忙しいし、こんな機会でないと長期は休みにくいのだろう。

「ではどういったプランがご希望でしょうか」

 私は脳内でスケジュールを確認する。
 あの視察を前倒しして、決済と会合を早めにしておけば、おそらく冬頃は連休にできる。

「また誤解しているだろ」
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