鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「まさか、そんな、畏れ多い。私程度のざっそ……平民が本城社長にそのような感情を向けるだなんて、身の程知らずも甚だしい」
「いま雑草って言った?」

 浦田さんは軽く眉を寄せた。

「すこし自分のこと卑下しすぎじゃない?あなた可愛いし、それに実際……」
「いいえ浦田さん、私は私が雑草であることに誇りを抱いています。社長と言う大樹を地面でお支えし枯れたのちは養分となることに矜持を抱いているのです」

 ぽかんとする浦田さんに胸を張り、にっこりと微笑んだ。

「なにしろ雑草は強いのですから!」



◇◇◇



 私が本城玲司社長にかくも敬愛を抱いたのにはきっかけがある。

 最初の出会いは就職活動での最終面接だった。
 御曹司とはいえ修行中でまだ営業部門の部長だった本城社長は、整いすぎたかんばせにクールな視線でまだ学生だった私を震え上がらせた。

 完璧すぎる容貌は、ときに人に畏怖を抱かせるのだと知った。

 二度目の邂逅は、私がこの会社を辞めようとしたときのことだった。

 当時営業部の営業アシスタントとして勤務していた私は、入社二年目にして光栄なことにアシスタントとしての能力を買われ、営業部のエースと呼ばれたいそう社内の女性人気を集めていた男性社員と組むことになったのだ。

 そもそも私が自分でも縁の下の力持ち、いわゆる「アシスタント」に向いていると気が付いたのは、高校時代のことだった。

 高校二年生の夏、陸上の短距離選手だった私はインターハイ直前に大けがをしてしまった。
 放課後、学校の階段から落ちてしまったのだ。

 ……誰かに当たったのだと思う。でもはっきりと顔を見たわけでもないし、わざとでもなかったと思うし、とうやむやになってしまった。

 ただ、その挫折は私にとって大きな転機だった。

 選手としては続けられない怪我を負ってしまったけれど、陸上競技自体は好きだった私はマネージャーとして部に復帰した。
 そうしてその仕事が、誰かを支えるという仕事がものすごくしっくりくるのに気が付いたのだ。
 私は「こっち」の人間なのだと知った。
 手術をしてリハビリをするという話もあった。けれど、それよりもマネージャーとしてみんなを支えていきたいと思ったのだ。
 大学でも陸上部のマネージャーとして過ごし、就職活動で営業アシスタントという職種を知り「これだ!」と思って無事採用された。

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