鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 帰国した当日にはもう会議が組まれていたけれど、玲司さんがファーストクラスをとってくれていたおかげでとても元気だ。
 なんなら私が一人暮らしをしていたワンルームマンションのベッドより寝心地がよかったくらいだ。
 そのマンションからはすでに引っ越し作業が完了していて、今日からは玲司さんと暮らすのだけれど。
 都内の閑静な住宅街にある一軒家だ。投機目的でご親戚が建てられていたのを譲っていただいたのだそうだ。




『当面はここで、落ち着いたら改めて新居を探そう』

 結婚前のこと。
 この家を見にきたときにそう言われ、目を剥いた。

『こんな素敵なお家ですのに?』

 広々とした玄関、フットサルくらいなら軽々できそうなくらいリビング。
 一般住宅で二階に続く階段の角度がここまで緩やかなのは余裕があるからのひとことに尽きる。
 白を基調とした調度品は天井まである大きな窓ガラスからの陽光で輝いていた。お庭は生き生きとした芝生が敷き詰められ目に眩しい。

『君の希望を全部詰め込んだ家が建てたい』
『私の希望を申しますと、ここまで広くなくてよいのではないかと』
『なぜ』
『掃除と管理がしづらいので』

 ふむ、と玲司さんは首を傾げる。

『ハウスキーパーを雇う予定だが』
『それは大変ありがたいご提案です』

 正直、働きながらこれだけの家を管理するのは骨だなと考えていたのだ。

『ほかに要望は?』
『……水回りが綺麗であればいいなと。あと少しだけでいいので、家庭菜園というか、土いじりできるスペースがあれば』

 首を傾げる私を、玲司さんはじっと見つめている。

『も、もうありません』

 そもそもイメージがわかなかったのだ。だって、彼と結婚すること自体に現実感なんてなかったのだから。
 ――そのとき、は。






「わあ……どうしましょう」

 私はリビングの座り心地のいいソファで頭を抱えていた。
 玲司さんが買てくれたもこもこの部屋着の柔らかさに癒されつつ、はあ、と息を吐く。
 スロベニアにいる間はどこかフワフワしていた感覚だったけれど、仕事をして帰宅するとさすがにはっきりと突き付けられる。これ現実だって……。

「どうした、神妙な顔をして」
「い、いえ……というか玲司さん」

 私は立ち上がり、彼と向き合う。玲司さんは……エプロンをつけていた。

「料理は私が!」
「いや、疲れているだろう?」
「それは玲司さんも同じ条件なのでは」
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