鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「……本当だ。藤木さん悪くないですね。一位は……新原乃愛さん」

 声に出してから目を丸くする。新原乃愛?

「これって」
「ん? そう、新原さん。先月途中入社してきたばっかりなんだけど、いきなりこの好成績だもん。すごすぎる……って、どうしたのその顔」
「あ、と、友達……っていうか同級生です。高校の」
「え、そうなの」
「卒業してからは、一切連絡とっていなかったんですけど」

 そっかあ。乃愛ちゃん、うちに入ったのか。一瞬、あの時かわいそうな目で見られた羞恥を思い出すけれど、心の中で首を振る。
 あんなの、勘違いしていた私が悪いし、乃愛ちゃんはすっかり忘れてしまっているだろう。

「じゃあ心春ちゃんが社長夫人だって知ったら驚くだろうね」
「あはは、そうですね」

 そんな会話をした数時間後――退勤の時刻。「少し残るから、君は先に帰宅しておいてくれ」という玲司さんの言葉に甘えて、地下鉄へ向かう。
 社用車で帰宅するよう言われたけれど、この時間は道路だってすごく混む。
 帰宅ラッシュの満員電車とはいえ、時間的には地下鉄に乗ってしまった方が早い。
 駅に続く、レンガ造りのすこしレトロな階段を下りていると、改札の柱のほうでイライラとした声が聞こえた。

「だーかーらー。今日は無理なのお。切るよ。ばいばーい」

 舌打ちとともに電話を切ったのが、綺麗な女性だったから驚いてしまう。まわりの通行人も一瞬女性に視線を向けていた。女性は慌てて笑顔を浮かべ、それから私を見て固まった。私も正面から彼女を見て目を丸くする。

「えーっ、心春じゃん」
「乃愛ちゃん」

 目を丸くする私に、乃愛ちゃんは駆け寄る。

「びっくりしたあ。仕事この近く?」
「う、うん」
「あたしそこだよ。ホンジョーエレクトロニクスの本社。営業なんだけど」

 彼女が誇らしそうで嬉しくなる。そんな会社にしているのは玲司さんだもんね。

「私もそうなの。その、速報見たよ。すごいね」

 乃愛ちゃんは一瞬目を瞬いて、それからにっこりと笑った。

「ありがと!」

 そう言って髪をかき上げる乃愛ちゃんは、本当に美人な大人に成長していた。
 艶やかな髪は濃い栗色で、艶やかな唇は綺麗な形をしている。
 やや釣り目がちな大きな目は猫みたいで、背も高い。身体にぴったりのパンツスーツはいかにも仕事ができる雰囲気だ。
 いやまあ、実際乃愛ちゃんはシゴデキな人なのだけれど……。
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