鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 壁にかかる時計を見つめ、急いでエプロンを外す。ど、どんな料理がいいんだろう……? と玄関に急いでいると、そのタイミングでガチャガチャと鍵を開ける音がした。

「あああ」
「……どうしたんだ?」

 不思議そうな玲司さんが小さな白い箱を持って立っていた。よくよく見れば、それは駅近くにある高級洋菓子店の箱だ。目がそこに向いていることに気が付いたのだろう、玲司さんが柔らかく目を細めた。

「あ、勝手に悪い。君が好きそうだなと」
「す、好きです、すっごく好きです……!」
「よかった。惚れてくれた?」
「もちろん惚れぬいております!」

 玲司さんが私のためにケーキを買って来てくださるなんて……っ。なんたる幸福、多分今私は世界一恵まれている!
 半ば身を乗り出すようにそう主張したあと、眉を下げた。

「すみません、私……お夕食を」
「夕食? なにがあったんだ?」
「……見ていただく方が早いかと」

 私はしずしずと廊下を歩く。変な汗がでている。
 リビングからダイニングに向かい、テーブルの上の料理に手を向けた。

「こちらが夕食です……その、あの」
「うまそう」

 玲司さんはじっと料理を見つめている。心なしか頬が赤い。

「これ、心春が全部? 俺のために?」

 あれ、思っていた反応とは違うぞ。
 内心首を傾げつつ、思い切って口を開く。

「もちろん玲司さんのためです。ですが、あまりにも質素というか庶民的になりすぎたというか。なのでいま。牛肉を買いに向かうところでした」

 私の言葉を聞いた玲司さんは一瞬ぽかんとして、それから大きく笑った。

「君は俺をなんだと思っているんだ」
「神の創りたまいし最高傑作……」
「なんだそれ、初めて聞いたぞ。とにかくまあ、俺はとても美味しそうだと思うし、そもそも君が作ったものならなんでもうまい」
「そ、そんなことは」
「ある。めちゃくちゃにある」

 玲司さんはそう断言して「着替えてくる」と二階への階段を上がっていく。あまりに綺麗な男性なので、モデルかはたまた王子様かという具合だった。

「ま、眩しい……」

 かっこよすぎて目が潰れる。
 思わずつぶやいてしまいつつ、キッチンに向かう。とりあえずお茶でも淹れよう。

「コーヒー……ではないよね」

 ふと固まった。
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