鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 仕事中はコーヒー派な玲司さん。
 外にお食事に連れていってくださったときはたいていそのお料理に合うお酒を呑んでいた。

 ではこのド庶民夕食に合うものは?

「ビール?」

 私は呟き、そしてハッとした。ビールも買って来ていない!
 玲司さんがビールを所望されたらどうするつもりだったの、私!

「心春。コップはどれにする?」

 いつのまにかリラックスできるTシャツに薄手のスウェットという格好で階段を下りてきていた玲司さんに聞かれ、私は眉を下げた。

「も、申し訳ございません、玲司さん。私、お酒も買い忘れてしまいまして……よければ、普段お飲みになっているドリンク類をお教えくださいますか」
「敬語敬語。また丁寧すぎるのに戻ってるぞ」
「はっ、申し訳……すみません」

 慌てて言いなおす私の頭を、玲司さんはぽんぽんと撫で優しい視線で見つめてくる。

「今日は緑茶でも淹れようか。せっかく初めて作ってくれた手料理なんだ、酔わずに味わいたい」
「はい」

 頭を撫でてくれる体温が、なんだかとても得難いものに思える。頷いた私の横で玲司さんが電気ケトルに手早く水を入れてしまう。設定温度は八十度だ。

「玲司さん。私が」
「どうして。俺が淹れるのは不安か? そこそこうまいはずだ」
「そうではなく」

 私は眉を下げた。

「私は玲司さんのサポートをするために、結婚を……」

 そのために選ばれた。

 仕事面ではさておき、私生活では玲司さんに甘やかされて、それすらこなせていない。
 このままじゃ、彼は私を見限るのでは。

 情に厚い人だ。けれどいつだって合理的な判断をする人だ。
 だから、もし、能力が足りないと判断されれば……。

 もっと、ふさわしい人がいたならば。
 それこそ乃愛ちゃんみたいな、なんでもできる綺麗な人だとか。
 ぞっとした。

 知らず、胸元を強く握る。
 肋骨の奥がとてつもなく鋭く痛んだからだ。
 切なくて、心臓が縮んだような気持になった。

 なんだろう、なにこれ、なんの感情なの。
 不安だけじゃない、もっと別の大きな感情が混じっていた。

 ふ、と玲司さんは口角を上げた。そうして私の頬を片手でむぎゅっと掴む。

「れ、玲司しゃん?」

 ヒヨコみたいな顔になっているであろう私が目を瞬くと、玲司さんは頬を掴んだままキスをしてくる。

「ん、んんっ」
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