鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 彼はすぐに離れたけれど、手は放してくれない。
 ヒヨコ状態の私に、彼は噛んで含めるように言う。

「俺は夫婦とは対等であるべきだと思う。性別も、収入の多寡なんかも関係なく。君は俺をサポートしたいと言うが、それはそっくりそのまま返そう。俺も君を支えたい。君が大切だから」
「で、ですが」

 私は内心首を傾げる。それでは、どうして私なんかと結婚を?
 胸がざわつく。変なときめきがある。このときめきは、何?
 玲司さんは私から手を放す。それから頬をくすぐり、目を細めた。

「そろそろ惚れてくれたか?」

 ときどき言われる言葉だったけれど、いつもの冗談みたいな雰囲気じゃない。
 あまりにも真剣な瞳に、息もできない。

「……っ」

 ぶわり、と頬に熱が集まった。

 不安が一瞬で霧散して、ときめきで胸がいっぱいになる。
 きらきらのそれは、その感情の名前は――恋。

 私、いま……ううん、いつからだろう、玲司さんに恋してしまっていた。

 泣きそうになる。身の程知らずも甚だしい。

 私が、そんな感情をむけられるわけ、そんなわけ――あとで恥ずかしい思いをするだけだ。
 だから、だめ。
 顔に出しちゃ、態度にしたらだめ。
 そう思えば思うほど切なくてドキドキして、叫びたくなる。
 あなたが好きだって。
 玲司さんはそれを見て、一瞬ぽかんとしたあと、少し泣きそうな顔をして私を抱きしめる。

「なあ心春、素直になってくれないか」

 玲司さんの声は掠れていた。心臓が早鐘を打つ音がする。
 私のもの? それとも、彼の?

「で、でもそんな……はずが。私みたいな人間が、あなたみたいなすごい人に」

 言いよどむ。「想われる」「恋をしてもらえる」? どれも恥ずかしい勘違いなような気がして喉が震えた。玲司さんは私の耳殻を甘く食み、耳元で言う。

「これは俺の友達の話なんだけどな」

 確実に自分自身のことを話す枕詞をつけて彼は続けた。

「プロポースをしようとしたデートの場で、なんと他の女性との見合いを提案されたそうだ」
「え……」

 玲司さんの腕の中、ばっと顔を上げる。いま、なんて。
 玲司さんはすこしバツが悪そうに笑った。

「彼女の生まれ年のワインまで用意して、勝負ネクタイまでしていたのに。それで、そいつはちょっと意地を張った。相手が自分に惚れてくれるまで気持ちを口にしないと」
「……っ」
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