鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「その反応は、俺の期待しているものでいいんだよな?」

 いつのまにか友達設定はなくなっていたらしい。私は泣きそうになりながら、迷って迷って、ようやく小さく頷いた。とたんに脇の下を持たれ抱き上げられる。そのままくるりと一回転された。

「わ、わあ、玲司さん」
「悪い、嬉しすぎて」

 玲司さんは私を抱きかかえなおし、リビングのソファまで運ぶ。そうして私を座らせ、自分はラグに片膝をついて座り私の手を取る。

「なあ、好きだよ心春」

 幸せそうな、蕩け切った笑顔。

「……っ」

 頬は発火するくらい熱かったのに、さらに熱くなってしまう。
 嬉しくて恥ずかしくて溶け落ちてしまうんじゃないだろうか。

「かわいい」

 そのひと言に、堪えていた涙がぽろっと零れ落ちてしまった。
 彼の『かわいい』が、本当の愛情に裏打ちされたものだって、ひしひしと伝わってきたから。
 しゃくりあげる私の手を強く彼は握る。

「かわいい、君はほんとうにかわいい。息しているだけでかわいい。愛おしくて苦しくなる」
「そ、んな」

 私はなんと言葉を続けようとしたのだろう?
 私は仕事の能力で彼に選ばれたわけじゃなかった。
 愛されていたから、ただそれだけの純粋な感情によって選ばれ、大切に慈しまれていた。

 嬉しくて苦しくて切なくて、胸で感情がぐちゃぐちゃになってしまう。
 その感情はなにひとつ言葉になってくれなかった。
 ただひたすらに泣きじゃくる私を玲司さんは強く抱きしめ、掠れた低い声で言う。

「愛してる」

 玲司さんにしがみつき、私は唯一はっきりしている言葉を繰り返す。

「好きです、大好きです、玲司さん」

 そう告げるたびに、玲司さんは私の後頭部を優しく撫でて「俺もだよ」と言葉にしてくれる。

「愛してる。なあ心春、君はどうしてこんなにかわいらしいんだろうな」

 こめかみに唇を押し付けられ、私は息の仕方を忘れたみたいに泣く。
 過去の「かわいい」に関する嫌だった記憶が、涙と一緒にさらさらと流れて消えていく。





「そもそも俺、かなりわかりやすかったと思うんだけれどな」

 食後、ダイニングで玲司さんが改めて淹れてくれた緑茶をいただきながら、そんな話を聞く。私は曖昧に首を傾げ、必至で記憶を手繰った。

「そうでしたでしょうか……?」
「そうだったらしい。目で追っているだの、目つきが優しいだの、声のトーンが違うだのなんだの」
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