鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 私が言うと、玲司さんは微笑み、立ち上がる。

「俺は、君を笑顔にするために生まれてきたんだろうな」

 思ってもない言葉に「え」と彼を見つめた。玲司さんは私の横に立ち、にこりと笑う。

「そう思わせてくれないか。君が笑顔だと、俺は幸せだから」

 胸がいっぱいで、言葉にならない。ぽたぽたと再び泣き出してしまう私を、彼はそっと抱きしめてくれた。





 翌朝出社すると、エレベーターホールで藤木さんと遭遇した。
 玲司さんはすでに出勤済みだ。まだ出勤時刻まで余裕があるため、人の姿はまばらだった。

「おはようございます」

 挨拶をすると、開口一番に「結婚おめでとう」と返ってくる。

「なかなか言うタイミングがなくて。よかったね」
「わ、ありがとうございます」
「まさか森下さんが社長夫人になるとは思わなかったよ」
「私もです」

 エレベーターを待ちながら小さく笑うと、藤木さんは頬を緩める。

「幸せそうでなによりだよ。よくお似合いだし」

 昨日までの私なら、きっと謙遜していたと思う。あんなすてきな方に私が釣り合うわけがないですよって。
 でも――ちゃんと愛されているって知ったから。

「ありがとうございます」

 そう言って微笑んだ私の背後で「え」と小さく声がした。
 振り向くと、立っていたのは乃愛ちゃんだった。

「社長夫人? 誰が? 心春が?」

 目を見開いて笑いをこらえる感じで言われて、ちょっと胸がざわつく。けれどなんにせよ返事をしなくてはと思った私の横で、藤木さんが淡々と答えた。

「馬鹿にしたような言い方ですね。ふたりは以前から社内でも有名なカップルでしたよ」

 そうだったの……?
 思わず藤木さんを見上げるけれど、彼はじっと乃愛ちゃんを探るような目で見ていた。
 あれ、と不思議に思う。なんだか、ただのライバルといった関係ではなさそう。
 藤木さんは明確に乃愛ちゃんを敵視していた。成績を抜かれただけとは思えない。

 なんだろう、と思っている私に「そんなつもりはなくてえ」と乃愛ちゃんは笑う。

「わかってくれるよねえ、心春なら。同級生なんだし」
「あ、うん……」

 返事をして、藤木さんに高校の同級生なんだと説明した。
 そのタイミングでエレベーターの扉が開く。他の人たちと一緒に乗り込みながら、乃愛ちゃんは私をじろじろと見下ろしてくる。

「ふうん、まさか。心春がねえ……」
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