鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
そう言ったあと、乃愛ちゃんが小さく笑うのを私は見過ごさなかった。
だってなんだか、含みがあるような――ううん、はっきり言えば悪意があるような微笑みかただったから。
営業部のある17階について、乃愛ちゃんはさっさと降りていったけれど、藤木さんはじっとしている。
「あれ、降りないんですか」
「そうなんだ」
法務部も過ぎ、やがて秘書室の階に止まった。私と一緒に藤木さんが降りる。
「もしかして社長にご用事ですか?」
アポイントはなかったはず、と眉を下げると藤木さんは立ち止まり、私に頭を下げた。
「実は今日会ったのは偶然じゃないんだ。君が来るのを待っていた」
「どういう……」
「社内で堂々と人妻を口説くとは」
ふと背後から声がして、ばっと振り向く。そこにいたのは玲司さんだった。社長室から出てきて大股でこちらに歩いてくる。
「営業の藤木だな。どうした」
「社長に、どうしても内密にお耳に入れておきたい要件がありまして」
藤木さんは背筋を伸ばし、はっきりと告げた。
「営業部の新原乃愛の不正について、です」
藤木さんの話は驚愕する内容だった。
「乃愛ちゃんが枕営業をしているだなんて……」
藤木さんが退室したあとの社長室で、思わず小さく呟く。
聞き逃さなかった玲司さんが視線を私に向けた。
「あ、あの、新原さんは同級生でして」
「まさか、君に『痛い』だの言い放った女じゃないだろうな」
そう言われてつい肩を揺らす。玲司さんが思い切り眉を寄せた。しまった、心象最悪になってしまった。玲司さんには公平な目線をもってほしいのに。眉を下げた私に、玲司さんは淡々と言う。
「まあなんにせよ、証拠があるんだからな」
「……勘違い、という可能性はありませんか? その、藤木さんを疑うわけではないのですが」
「取引先の担当者と新原がホテルから出てくる写真を撮られておいて?」
むぐ、と押し黙る。確かに、それは……。
「で、でもその一件では……たまたま恋人だったという可能性も」
「相手は既婚者だぞ? どちらにせよアウトだ」
「そうですが……その」
私は眉を下げた。
「言っていませんでしたが、私、昔大きなケガをしたことがあって」
「ケガ?」
「日常生活では全く問題ないのですが」
私は高校時代のケガについて説明をして、「それで」と言葉を続けた。
だってなんだか、含みがあるような――ううん、はっきり言えば悪意があるような微笑みかただったから。
営業部のある17階について、乃愛ちゃんはさっさと降りていったけれど、藤木さんはじっとしている。
「あれ、降りないんですか」
「そうなんだ」
法務部も過ぎ、やがて秘書室の階に止まった。私と一緒に藤木さんが降りる。
「もしかして社長にご用事ですか?」
アポイントはなかったはず、と眉を下げると藤木さんは立ち止まり、私に頭を下げた。
「実は今日会ったのは偶然じゃないんだ。君が来るのを待っていた」
「どういう……」
「社内で堂々と人妻を口説くとは」
ふと背後から声がして、ばっと振り向く。そこにいたのは玲司さんだった。社長室から出てきて大股でこちらに歩いてくる。
「営業の藤木だな。どうした」
「社長に、どうしても内密にお耳に入れておきたい要件がありまして」
藤木さんは背筋を伸ばし、はっきりと告げた。
「営業部の新原乃愛の不正について、です」
藤木さんの話は驚愕する内容だった。
「乃愛ちゃんが枕営業をしているだなんて……」
藤木さんが退室したあとの社長室で、思わず小さく呟く。
聞き逃さなかった玲司さんが視線を私に向けた。
「あ、あの、新原さんは同級生でして」
「まさか、君に『痛い』だの言い放った女じゃないだろうな」
そう言われてつい肩を揺らす。玲司さんが思い切り眉を寄せた。しまった、心象最悪になってしまった。玲司さんには公平な目線をもってほしいのに。眉を下げた私に、玲司さんは淡々と言う。
「まあなんにせよ、証拠があるんだからな」
「……勘違い、という可能性はありませんか? その、藤木さんを疑うわけではないのですが」
「取引先の担当者と新原がホテルから出てくる写真を撮られておいて?」
むぐ、と押し黙る。確かに、それは……。
「で、でもその一件では……たまたま恋人だったという可能性も」
「相手は既婚者だぞ? どちらにせよアウトだ」
「そうですが……その」
私は眉を下げた。
「言っていませんでしたが、私、昔大きなケガをしたことがあって」
「ケガ?」
「日常生活では全く問題ないのですが」
私は高校時代のケガについて説明をして、「それで」と言葉を続けた。