鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「そのときに、親身になってくれたのが乃愛ちゃ……新原さんでした。卒業後はだんだんと疎遠になってしまって、いまの人となりは知りません。でも、やっぱり……個人的感情に過ぎないのですが、そんなに悪いことをする人だって、信じたくないんです」

 玲司さんは目を瞬き、それから微かに頬を緩めた。

「そういうところが、君の魅力だよ」
「え?」
「まあ、なんにせよ調査しなくてはな」

 腕を組み、玲司さんは考えるように目を閉じた。

「……と、その前に工場新設の進捗は?」
「あ、はい」

 私はタブレットで書類を確認しつつ、小さく眉を下げた。

「やはり直接社長に行っていただくのがよいかと……お忙しいのに、申し訳ないのですが」

 新工場の建設に関して、いろいろと滞っていた。
 建設先は、九州、大分県。

 いま半導体メーカーは国内外問わず、こぞって九州に熱視線を注いでいた。
 もともとシリコンアイランドとの異名を得るほど半導体工場が多かった九州。
 半導体の製造に欠かせない豊富で綺麗な地下水があることと、各県に空港があり製品の空輸コストが低いことが大きな理由だ。

 さらに近年アジア圏での製造業が好調ということもあり、アジア各都市に距離が近い九州が再注目されているのだった。
 うちの場合は、系列の関連工場がある大分が第一候補地となっていた。

「いや、構わない」

 玲司さんはPCをじっと見つめて、それから「そうだ」と頬を緩めた。

「終業後、前日入りして温泉にいかないか」
「温泉……ですか?」
「到着は遅くなるだろうが、露天風呂に入ってのんびりしよう」
「いいですねえ」

 思わず身を乗り出した。温泉なんて、もう何年行っていないだろう。
 予約は任せてほしいとの玲司さんに任せ、私は視察のスケジュールを関係各所と擦り合わせた。
 結果、視察は来月、九月の半ばに決定した。
 その視察の件もあり、玲司さんの仕事はさらに密度を増した。
 正直身体を壊してしまうんじゃないかと心配している私をよそに、玲司さんはとっても元気だった。

 とくに、夜。

「ん、んっ」

 シーツを握りしめ足を跳ねさせる私の首筋を、玲司さんは鼻先で撫でる。

「心春」

 そう蕩けるような甘い声で私を呼んで、彼は私の鎖骨に噛みつく。甘い痛みに思わず喘ぐ声が上ずった。

「ああっ」
「ほら、もう少し頑張れ」
「もう、む……りです……」
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