鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 ずっと気に掛かっていたのだ。玲司さんが誠司さんから電話をもらったときの表情が──。
 唐突に回ってきた、後継者の椅子。

 玲司さんは本当に望んでいたものなのだろうか? 強すぎる責任感で投げ出せないだけなんじゃ。

 ……そのために、必死で頑張って来たのを知っている。だからこそ、想像と分かっていても胸が痛んだ。
 あまり、誠司さんについては触れない方がいいのかもしれない。このストールを使っていても、玲司さんはなんとも言わなかったけれど……、でも。

 ストールを外し、髪の毛をほどいて、キスマークを隠す。うん、これでいい。



 その日は玲司さんと帰宅する。社用車で、運転手さんに送ってもらってだ。少し溜まった仕事を車内でこなしつつ、玲司さんが口を開いた。

「心春。そういえば、誕生日何が欲しい?」
「えっ」

 私はじっと玲司さんを見つめる。玲司さんはノートパソコンの画面から目を離し、私を不思議そうに見た。

「来月だろ? 九月四日」
「そ、そうです。覚えていてくださっているとは」

 玲司さんはキョトンとして、それから吹き出した。

「覚えているに決まっているだろ」
「感動です」

 玲司さんは楽しげに肩を揺らしつつ、私の頭を撫でた。

「で、なにがほしい?」
「そう、ですね……」

 欲しいもの。欲しいものか……。
 私は窓の外を見る。晩夏の空はもうすっかり暗かった。

「秋冬用に、少し厚めのストールがあればなと思っていました」
「ストール?」
「はい。ストールがいいです」

 私が言うと、玲司さんは「わかった」と微笑む。
 そこになんの含みもないように思うけれど、誠司さんにも申し訳ないけれど、あの夏の空みたいな色のストールはもう使わないことにする。



 そうしてやってきた誕生日。
 平日だったため、休みを取ろうと言ってくれた玲司さんを説得して家でこじんまりしたお祝いをしてもらうことにした。
 玲司さんは張り切ってくれていたようで心苦しかったけれど、休みなんて取ったら玲司さんの仕事に皺寄せがどうしてもでてしまう。それくらいなんともないと彼は言うけれど、私が嫌なのだった。

 結局、玲司さんは夕食に老舗のイタリアンのコースをデリバリーで注文してくれた。
 ……このお店、普段デリバリーなんて絶対していないと思うんだけれど。

「誕生日おめでとう」
「ありがとうございます!」
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