鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「え、そんな……ことを……覚えていてくださって」

 私はネックレスをぎゅっと握った。
 そんな、ほんのちょっとした雑談を気に留めて、プレゼントまで用意してくれて。

 嬉しすぎて飛び跳ねたい。でも大人だからしない。しないけど、その喜びが身体の中で跳ね回って代わりに涙になって零れてしまう。
 ふ、と玲司さんが笑う。

「君は泣き虫だな」
「す、すみませっ」
「そういうところが大好きだ。なあ、俺のお姫様」

 そう言って彼は私の横に、王子様みたいに片膝をつく。そういえば、玲司さんはよくこんなふうにしてくれる。
 お姫様ってときどき言ってくれるこの言葉、本気なのかな。
 こんな私が、誰かの──玲司さんのお姫様になれるだなんて。

「それをつけても?」
「──はい」

 泣きながらこくっと頷き、ストールを外す。彼は立ち上がり、ちゅっと目元にキスをして涙を拭ってくれる。それから私の後髪をさらりと前に垂らし、うなじにもキスを落とす。

「かわいい、心春」

 彼は器用にネックレスをつけて、そうして一歩身体を引いた。
 ネックレスの冷たい感触が、火照った身体に心地いい。玲司さんの視線を感じて顔を上げる。彼は信じられないくらいに幸せそうに頬を綻ばせた。

「似合ってる」
「玲司さん。私、幸せです。どうあなたに返したらいいのかわからない」
「君がいてくれるだけでいい」

 玲司さんは私の手を取る。そうして自分の頬に当てて言った。

「君がいてくれるだけで、それだけでいいんだ。俺はそれで満たされる」




 自分が、誰かにとって唯一無二の存在になることなんて想像もしてなかった。
 私にとっての唯一無二は玲司さんで、こんなふうな仲になる前もそうだった。

 玲司さんにとって私がそれだけ大きな存在だって、彼の全部の言葉から、態度から、表情から伝わってくる。どうして気が付かなかったのか不思議なくらい。
 それだけ、過去の出来事に縛られていたんだろうけれど──玲司さんがそれを打ち消してくれたいま、自信を失くすのは彼にとって失礼だ。

「でも、ほんと不思議だよね? 心春ってそんな美人でもないし、頭の回転もそんなよくないと思うし。どこが社長は良かったのかな? あんまり心春みたいな普通の子が周りにいなくて、目新しくてくらっと来ちゃったかな?」
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