鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 友人や同僚には盲目的すぎないか、と言われたこともある。

 けれどそれのどこが悪いのかわからない。
 だって本城社長にはその価値があった。私の人生を捧げて余りある人だと、私はすっかり理解していた。
 いわば、推し。
 推しに人生を捧げられる、これより幸せなことってある?

 ないでしょ。


◇◇◇


 ランチから秘書室へ戻ってすぐ、会長秘書の香椎さんから声をかけられた。

「森下さん、お昼休みにごめんなさい。会長からお話があるそうなんだけど」

 会長とは、本城社長のお母様だ。若いころからすごく有能な方で、現在は他社のCEO、および数社の社外取締役などで多忙を極めているお父様と一緒にこの会社を盛り立ててきた。

「なんの話なのか教えてもらえてないんだけれど、わかる?」

 その言葉にピンときて、こっそり口角を上げた。あの件ですね会長、と内心会長に返事をする。

「社長に関する個人的な案件です」
「ああ、了解」

 香椎さんはそう言いながら内線で私が行くことを会長に伝えてくれた。すぐに秘書室を出て、一階上の会長室へ向かう。

「会長、失礼いたします」

 会長は重厚なマホガニーのデスクの上でゆったりと手を組み、小さく微笑んだ。とっくに還暦を過ぎたとは思えない、若々しく凛とした、美しい方だ。

「ごめんなさいね、急に。お昼に出ていたの?」
「はい。社長の提案で、秘書係でシフトを組んで外に食事にいけるよう気を遣ってくださったんです。さすが社長です。部下への気の配り方も完璧。どうしてこの世にはあんなに素晴らしい方が存在するんでしょう……ああ、会長が。会長が産んでくださったから……」
「相変わらず、とてつもない崇敬ぶりね」

 会長は肩をすくめ、続けた。

「心酔といった方がいいのかしら。知ってる? そういうの、とおっても危ないの。千鳥足で一本橋を渡るようなものだわ」
「社長に酔って溺れ死ぬのならば本望です」
「あら、やだ」

 会長は大きく相好を崩した。

「そんな大した男じゃないわよ、あの子は」
「な、なにを仰います……?」
「男なんていくつになっても変わらないの。好きな女性の前で精一杯格好つけているだけなのよ」
「好きな……?」

 ぽかんと聞き返した私に、会長は「あら」ととても優美に笑った。

「いまのは……そうね、忘れてちょうだい。ところで」

 会長はにっこりと笑みを深くした。

「先日の話は覚えているかしら?」
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