鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
乃愛ちゃんが手を伸ばす。触れられる直前で慌てて身体を引くと、彼女は表情こそ笑顔のままだけれど、明らかにムッとした色を顔に浮かべた。
「えー。心春、性格わるぅい」
「っ、あ、ご、ごめん。でも無理」
「せっかく社長夫人になったのにケチなままじゃん。高校のときだってさ」
「高校の……?」
「そう!」
乃愛ちゃんは唇を尖らせた。美人な人だから、そんな仕草も様になる。
「スパイク履かせてって言ったらだめって」
「スパイク……? あ、ああ」
あったな、とぼんやり思い出す。『それ履くと速く走れるの? 貸してよ!』ともぎ取られそうになったのだった。インハイ前で靴に変な癖をつけたくなくて断ったのだ。
「よく覚えてるねー。でもねあの、大会前で」
「結局出てないじゃん?」
その言葉に苦笑する。
一瞬、一瞬だけあの夏を思い出す。
インターハイ直前の学校のグラウンドだ。
照りつける太陽、グラウンドに吹く風、足元に落ちる黒い影。
乾燥した砂の匂い。
湧き出す玉の汗を腕で拭う。
暑すぎて蝉も鳴かない、静かなトラック。
一瞬でも速く走ることを追い求めていた日々。
全力で走ることを、あの日突然に奪われた。
でもそんな日々を支えてくれたのは乃愛ちゃんだった……。なのに、そんなことを言うだなんて。
まあ、もう何年も経っているからなと気分を切り替える私をじとりと乃愛ちゃんは見つめてくる。
「ほんっとケチ」
ぶつぶつ言う乃愛ちゃんは、それから私を見てニヤリと笑う。
「でもそれはいつかもらうー」
「あ、あげないよ」
冗談かな、と思いつつも笑顔が引き攣ったとき、ようやく浦田さんが帰ってきてくれた。
「何の話してたの?」
「それ社長からのプレゼントなんですってえ」
「あ、だと思った。似合ってるよ心春ちゃん」
浦田さんがにっこりと笑い、同じタイミングでランチも運ばれてきた。
「あー、やっぱ心春のセット、おいしそうだったなー」
私はクリームパスタで、乃愛ちゃんと浦田さんは和風パスタだ。
あとはサラダとスープ、そしてパンが食べ放題だ。乃愛ちゃんの目が私のお皿に向いている。
「ちょっとちょうだい」
乃愛ちゃんは私のお皿を勝手にとり、数口勝手に食べてしまう。
「ちょ、ちょっと。それ心春ちゃんのでしょ」
「えー? 友達なんだから、なんでもシェアするのって当たり前でしょ」
「えー。心春、性格わるぅい」
「っ、あ、ご、ごめん。でも無理」
「せっかく社長夫人になったのにケチなままじゃん。高校のときだってさ」
「高校の……?」
「そう!」
乃愛ちゃんは唇を尖らせた。美人な人だから、そんな仕草も様になる。
「スパイク履かせてって言ったらだめって」
「スパイク……? あ、ああ」
あったな、とぼんやり思い出す。『それ履くと速く走れるの? 貸してよ!』ともぎ取られそうになったのだった。インハイ前で靴に変な癖をつけたくなくて断ったのだ。
「よく覚えてるねー。でもねあの、大会前で」
「結局出てないじゃん?」
その言葉に苦笑する。
一瞬、一瞬だけあの夏を思い出す。
インターハイ直前の学校のグラウンドだ。
照りつける太陽、グラウンドに吹く風、足元に落ちる黒い影。
乾燥した砂の匂い。
湧き出す玉の汗を腕で拭う。
暑すぎて蝉も鳴かない、静かなトラック。
一瞬でも速く走ることを追い求めていた日々。
全力で走ることを、あの日突然に奪われた。
でもそんな日々を支えてくれたのは乃愛ちゃんだった……。なのに、そんなことを言うだなんて。
まあ、もう何年も経っているからなと気分を切り替える私をじとりと乃愛ちゃんは見つめてくる。
「ほんっとケチ」
ぶつぶつ言う乃愛ちゃんは、それから私を見てニヤリと笑う。
「でもそれはいつかもらうー」
「あ、あげないよ」
冗談かな、と思いつつも笑顔が引き攣ったとき、ようやく浦田さんが帰ってきてくれた。
「何の話してたの?」
「それ社長からのプレゼントなんですってえ」
「あ、だと思った。似合ってるよ心春ちゃん」
浦田さんがにっこりと笑い、同じタイミングでランチも運ばれてきた。
「あー、やっぱ心春のセット、おいしそうだったなー」
私はクリームパスタで、乃愛ちゃんと浦田さんは和風パスタだ。
あとはサラダとスープ、そしてパンが食べ放題だ。乃愛ちゃんの目が私のお皿に向いている。
「ちょっとちょうだい」
乃愛ちゃんは私のお皿を勝手にとり、数口勝手に食べてしまう。
「ちょ、ちょっと。それ心春ちゃんのでしょ」
「えー? 友達なんだから、なんでもシェアするのって当たり前でしょ」