鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「俺は俺のしたいようにしているだけ」
「それがありがたいんです」

 にこりと笑って彼を見上げると、玲司さんは困ったように肩をすくめた。

「そうか、ほしいものか」
「なんでもいいです。ないなら、やってほしいことでもいいです。なんでもやりますよ」
「……なんでもいいんだな」
「はい。不肖この本城心春、女に二言はありません」

 私は胸を張り、しっかりと頷いた。玲司さんは口角を片方だけ上げる。ちょっとワイルドみのある、そんな微笑み方だった。きゅんとしてしまう。

「なら、また後で言うよ」
「ええ、いま聞かせてください」

 そう言って口をとがらせる私に、玲司さんは笑うだけでなにも答えてくれなかった。

 ややあって到着した温泉旅館は、湾を臨む眺めのいい旅館だった。観光地ということもあり、少し離れた場所には観光ホテルが立ち並ぶ。そんな中心地から少し離れているためか、閑静で落ち着きのある雰囲気の旅館だ。
 目の前の砂浜には、風情ある松が並んでいるのが月明りでぼんやりと見えた。

 すでに時刻は二十二時近い。
 案内された離れの部屋に、思わず歓声を上げた。広々とした本間のほかに、奥の間と広縁。さらに濡れ縁の向こうには部屋付きの露天風呂が見えた。さらに内風呂まであるらしい。

「お久しぶりにお会いしたと思ったら、奥さん連れてらっしゃるなんて」

 おかみさんは玲司さんの知己らしい。五十代くらいの楚々とした女性だった。
 なんでも、ここはお義父様の常宿で、玲司さん自身は子どものころ何度か家族旅行で訪れたことがあるということだった。

「お世話になります」
「一泊だけと言わず、今度はゆっくりいらしてくださいね。……あ、主人がのちほどご挨拶に参りますので」
「お気になさらず」

 答える玲司さんに、そういうわけにはと女将さんは微笑んだ。

「でももう本日はお疲れでしょうしね。明日伺うよう申し伝えます。それから軽食、用意してございますので、よろしければ」

 女将さんの言葉にお礼を言って頷く。
 空港でも食べていたため、せっかく用意してくれたのにお腹に入るか心配だったけれど、本間の座卓に用意されていたのは美味しそうな鯛の出汁茶漬けだった。
 たっぷりの鯛のお刺身が載った小ぶりのどんぶりに、自分で出汁をかけて食べるスタイルだ。
 ふんわりと香る出汁に、お腹がきゅうっと鳴る。

「ふっ」
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