鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 玲司さんを恋愛的に好きになる前、私はお仕事をバリバリこなす彼に心酔していた。
 もちろん健康状態は気にさせてもらっていたけれど。
 なのに今はただひたすらに心配だった。
 もちろんお仕事を次々にこなす姿はかっこいいし、尊敬している。
 でも、前の感覚と違う。
 そうか、私にとって玲司さんはもう「推し」じゃないんだ。
 大切にして慈しむべき夫で、家族で、大切な人なんだ。

「心春、どうした? 疲れたか」

 さすがに長距離移動だったからなあ、と玲司さんが眉を下げた。
 仕事中の怜悧な瞳とは、あったく違う、慈愛に満ち溢れた瞳。

「すまなかった、どうしても……最近ゆっくりふたりで出かけられていなかっただろう? 少し君とゆっくりしたくて」
「いえ」

 私は立ち上がり、わがままだったな、と言う彼の横に座った。
 そうして彼の手に触れ、真っ直ぐに言う。

「嬉しいです、連れてきてもらえて」
「心春」
「その、いまぼうっとしていたのは……玲司さんが私にとってとても大切な人なんだって再認識していただけで」
「ほう。ずいぶん嬉しいことを言ってくれるな」

 口調は余裕のあるものだっかけれど、玲司さんの耳が少し赤い。
 ……たったこれらいで照れてくれるだなんて。嬉しそうに目を細めてくれるだなんて――私はどれほど、彼に愛され大切にされているのだろう。
 きゅんとして、ときめきが止まらない。

 玲司さんが私の頬を撫でて、そっと唇を重ねてきた。
 柔らかで温かなこの感触に慣れつつあるようで、実際は全然慣れてくれない。
 もう何回キスしたかなんてわからないくらいなのに、キスをするたびに初めてのキスみたいに緊張するし、嬉しくてときめいてしまう。
 ゆっくりとキスが深くなる。口内を彼の舌でたっぷりと舐め上げられ、頭の芯がじんとしびれてしまう。
 下唇を軽く甘く噛んでから彼は私から口を離した。
 柔らかに微笑む彼に笑い返すと、玲司さんはぽんぽんと頭を撫でてくれる。

「風呂、行くか」
「あ、玲司さんお先に」

 そう答えた瞬間、玲司さんは「ふは」と笑って私の頬をむにりと優しくつねる。

「ここまで来て別々だっていうのか?」
「ええ……と……?」
「俺は君と一緒に入りたい。どうだろう」
「どう……どう?」

 一気に頬が熱くなる。きっと目は大きく見開いているはずだ。
 れ、玲司さんと温泉に……入る?
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