鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 目を白黒させたり頬を赤くしたりしているであろう私の頬を、玲司さんはむにむにと揉んだ。

「いいだろ?」
「でも」
「さっき約束したじゃないか」

 玲司さんはにやりと笑う。

「なんでもするって」
「……え」

 私は金魚みたいに口をぱくぱくとさせる。
 そんな、まさかこんなところで使ってくるとは思っていなかった……っ。

「で、でも。そもそもですね、私がそんなことを言い出したのには、玲司さんにゆっくりリラックスして休んでもらいたいと思っていたからでして」
「ん、大丈夫だ。君といると常に最高に素敵な気分だから。それとも癒してくれるか?」

 少し前に玲司さんが『癒される』と主張して私にした様々な破廉恥な所業を思い出し、ぶんぶんと首を振る。

「してほしそうな顔をしているな」
「してませ……やんっ」

 首筋を彼の指がつうっと撫であげた。

「本当に?」

 私を見てくる目つきが、信じられないほど色気があった。
 玲司さんほどかっこいい人がこんな表情を浮かべると、破壊力がすごい。
 陥落しそうな意識を必死で叱咤して、私は上ずった声で「お風呂行きましょう!」と大きく叫んだのだった。

 羞恥心で死んでしまいそうになりながら、脱衣所で身体をバスタオルで隠し服を脱ぐ。
 脱衣所といってもかなり広い。ガラス張りの内風呂につながっていて、もう一つのガラス戸を出れば露天風呂だ。

「裸なんか、普段見ているのに」

 玲司さんは不思議そうに、でもたっぷりとからかいを含んだ口調で言った。私はむっと彼を見上げる――細身の引き締まった体躯で彼は肩をすくめた。さっと目を逸らすと、玲司さんは楽しそうに目を細める。
 一緒に檜造りの浴槽に向かう。かけ流しのそこに入ると、じんわりと温かさに包まれる。

「うわあ、気持ちがいい……」

 思わずそう言って、慌てて口を押さえた。外だから、あまり大きな声だと他の宿泊の方に迷惑がかかるかもしれない。

「大丈夫だ。この離れはいちばん隅だからよほど大声じゃない限りは迷惑にならない」

 私の隣でそう言って、玲司さんは苦笑した。

「以前、俺がまだ小さかったころ、両親と兄とここに来て。はしゃいでしまった俺に兄がそう教えてくれて」

 玲司さんはそう言ってから少し黙った。それからぽつりと口を開く。

「俺と兄の関係はすこし変だろう?」
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