鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 唐突だけれど、確かに思っていたことを言われて微かに首を傾げた。玲司さんは目を柔らかく細める。

「遠慮するな。実際変だと思う。年齢差だけじゃない、……俺が一方的に距離を置いてる」

 黙ってうなずくと、玲司さんはぽつりと続けた。

「……俺は兄には敵わないと思っているんだ」
「え?」

 じっと玲司さんを見つめると、玲司さんは空を見上げた。
 満天の星だ。耳を澄ませば、潮騒が聞こえる。

「俺がどれだけ努力しても。あの人は飄々と先を行く」
「十歳も違うんです。そう感じてしまうのは当然では」

 今はともかく、子どものころなんて到底追いつけない年齢差だ。

「まあ、そうなんだろうがな。沁みついたものはなかなか拭えない。まったく、自分が弱くて嫌になる」

 そう言う玲司さんの腕に、そっと触れた。

「たしかにお義兄様はすごい方なのかもしれません。でも、玲司さんはこの肩に、手に、従業員、そしてご家族を含めれば一万人近い人の生活を背負っています。そのプレッシャーに負けず前を向くあなたのどこが弱いのでしょう。玲司さん」

 私はじっと彼を見つめた。

「あなたは世界一、かっこいいです」
「……それは言いすぎじゃないか?

 そう言って彼は片手で目元を覆い、天を仰ぐ。
 唇は笑っていたけれど、泣いているようにも思えて、私はなんにも言わずにただ寄り添った。
 私にできるのは、きっとそれくらいだと思ったから。

 その日の夜は、ぎゅっと抱き合って眠った。
 居心地のいい布団の中、ぴったり寄り添って、溶けあうみたいにして。
 お互いの吐息と、遠くで打ち寄せる波の音だけが、温かな空間に響いていた。

 翌朝、玲司さんはいつも通りの玲司さんだった。

「午前中はデートしてから向かおうか」

 私はにっこりと頷く。きっと最初からそのつもりだったんだろうな、と思う。
 ……というか、最初に結婚の話が出たとき言っていた寺社巡りと家庭菜園が最近の趣味だ、というのは策略だったのだろう。
 というか、普通はあの時点で彼の気持ちにきがつくんじゃないだろうか。
 私が頑なに異性からの好意をシャットダウンしていただけで。
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