鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 地元の海の幸山の幸がふんだんに使われた朝食を堪能したあと玲司さんが連れてきてくれたのは、工場建設予定地から少し行ったところにある大きな神社だった。

 町中にぽつっと急に現れる鬱蒼とした鎮守の森に抱かれるように神社は鎮座していた。
 参道にはお土産屋さんが立ち並ぶ。
 まだ早い時間だからか、観光客の姿はまばらだ。
 広い駐車場にも観光バスがぽつぽつあるくらい。

「歩きにくくないか?」

 境内の砂利道を歩きながら玲司さんが心配してくれているのは、私がスーツで、それに合わせてパンプスを履いているからだ。
 なにしろこの後すぐに建設予定地に向かうので――私はにっこりと笑う。

「大丈夫ですよ。そう高いヒールではないので」
「そうか。ならいいんだ」

 そう言って頬を緩める玲司さんもまた、スーツ姿だ。
 シャツにベストで、ジャケットは腕にかけていた。
 私もジャケットは脱いでいた。九月半ばとはいえ、まだ日中は夏めいている。
 森の木々から、ツクツクボウシが鳴いているのが聞こえる。もうききおさめだろうなと、秋めいている空を見上げて思った。

「ところで、なんで寺社巡りが好きなんだ」

 ふと聞かれ、小さく首を傾げた。

「うーん。もともとは高校が日本史選択で、そこで興味を持ったのがきっかけですね」

 趣味なので、他に高尚な理由なんかはないのだけれど。

「俺は世界史だったな。懐かしい」
「どうして世界史に?」
「世界全体の歴史の流れが知っておきたかった……というのは建前で、あまりにも藤原が多すぎて覚えるのが面倒くさかったからだ」

 私は立ち止まって目を丸くする。それから大きく笑った。

「意外です! でも世界史のほうが大変そう。ええと、マルクス・アウレ……あれ」
「マルクス・アウレリウス・アントニヌス?」
「そうです。そっちの方が大変そう」
「藤原冬嗣だの藤原長良だの藤原良方だののほうがごちゃごちゃしている」
「いま私の知らない藤原さんが通りましたね。詳しいじゃないですか」
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