鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 そんな、あんまり意味のないような会話が楽しくてたまらない。
 そこから高校時代の話になって、今まで知らなかった玲司さんの話を聞く。
 好きな人のことはいろいろ知りたいから、どんどん質問してしまう。
 玲司さんが高校の時はバスケをしていたのは知っていたし、それから大学はアメリカの大学を飛び級で卒業したのも知っていたけれど、まさか渡米のそもそものきっかけはバスケだなんて知らなかった。

「え、バスケ留学でアメリカの高校に行って、そこから大学に進学して……ってことだったんですか?」
「最初はな。入学してからは勉強に集中するために趣味程度に抑えたけれど」
「ええ……なんですかそれ、かっこいい」

 私は玲司さんを尊敬のまなざしで見つめる。
 きっと、凡人である私には想像を絶するような努力と我慢の成果だろう。
 他の人なら「これくらいでいいか」と手を緩めるところで、玲司さんは絶対に踏ん張るひとだから。
 なんというか、そういうところが大好きだ。

 玲司さんは「ふ」と笑って私の頭をポンポンと撫でて、それから目線を上げた。
 玲司さんの視線の先を追う。
 そこには、本殿前の鳥居の近く、こちらを見て手水場で固まっている男性がふたり。作業服の男性と、スーツの男性ひとり……と、スーツ姿の男性には見覚えがある。

「遠賀社長!」

 私が声をかけると、そのスーツの男性が玉砂利を小走りにこちらにやってくる。
 白髪で少し小柄な、眼鏡をかけた男性だ。

「本城社長、奥様。この度はご足労いただきまして」
「いえ、遠賀さん。お忙しいところありがとうございます」

 遠賀社長は関連企業の社長だ。今日の視察に同行してくれる予定だった。
 背後にいた作業服姿の男性も慌てた様子でやってくる。

「こちらウチの技術主任の……」

 遠賀社長が紹介しようと彼を振り向いたとき、玲司さんは目礼して口を開いた。

「田川さんですね。御高名はかねがね」
「っ、恐縮です」
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