鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
田川さんは頭を下げる。
私は正直、玲司さんの記憶力に舌を巻いた。
田川さんは大学工学部に在籍していたころから研究論文が世界的に注目されていたトップクラスの技術者で、大きな賞もとっている。
当然私も名前は存じ上げていたけれど、さすがに初見でお名前と顔が一致するほどではなかった。
玲司さんの元の記憶力がいいのもあるだろうけれど、それ以上に関連企業を含めて従業員を大切にするひとなのだ。
田川さんみたいに、貢献してくださるかたはなおさら。
私をふくめお互いに挨拶を済ませたところで、疑問だったことを聞いてみる。
「ところで、なにかあったのですか? あそこで固まってらっしゃったので」
私はふたりを見て首を傾げた。
遠賀社長と田島さんは互いに顔を見合わせたあと、先に田川さんが噴き出す。
「いや、あのですね」
田川さんの柔らかん言い方に、方言のほうの「あのですね」だと気が付いた。
文句があるときの枕詞的なやつではなく、九州の方言では話始めの合図のようなものらしい。
今朝、食事の配膳に来てくれた中居さんが使っていて少し不思議に思っていたところを、玲司さんが解説してくれたのだ。
特に福岡で使うものらしいから、中居さんも田川さんも、出身自体は福岡なのかも……って、ほんとに玲司さんって、なんでも知っているなあ。
「あのですね、うちの遠賀があんまりにも『本城社長はクールで表情も変わらん人やけど、怖がったらいけんよ。話はきちんと聞いてくれる人やけん』なんて言いよったんですよ。ちょうどその手水場で」
そう言って目線をそっちに向けてから微笑む。
「けど、そしたら遠賀が本城社長を見つけてですね。挨拶せんとって顔を見たらにこにこしとらすやないですか。あんな甘い目をして奥さん見つめてらっしゃる人なのに、社長、大げさですよ」
後半は遠賀社長に向けた言葉だった。遠賀社長は眼鏡のつるを持ってまじまじと玲司さんを見つめた。
「ああ、いやあ……結婚されて、雰囲気が随分変わられましたね」
「……お恥ずかしいところを」
玲司さんはちょっと照れているようだった。こういうのは珍しい。思わず観察してしまう。
「とてつもない甘々なカップルがいるなあ、と目をやったら本城社長が笑ってらっしゃったので……僕は幻覚を見たのかと固まってしまったんですよ」
苦笑する遠賀社長に、玲司さんも苦笑し返した。
私は正直、玲司さんの記憶力に舌を巻いた。
田川さんは大学工学部に在籍していたころから研究論文が世界的に注目されていたトップクラスの技術者で、大きな賞もとっている。
当然私も名前は存じ上げていたけれど、さすがに初見でお名前と顔が一致するほどではなかった。
玲司さんの元の記憶力がいいのもあるだろうけれど、それ以上に関連企業を含めて従業員を大切にするひとなのだ。
田川さんみたいに、貢献してくださるかたはなおさら。
私をふくめお互いに挨拶を済ませたところで、疑問だったことを聞いてみる。
「ところで、なにかあったのですか? あそこで固まってらっしゃったので」
私はふたりを見て首を傾げた。
遠賀社長と田島さんは互いに顔を見合わせたあと、先に田川さんが噴き出す。
「いや、あのですね」
田川さんの柔らかん言い方に、方言のほうの「あのですね」だと気が付いた。
文句があるときの枕詞的なやつではなく、九州の方言では話始めの合図のようなものらしい。
今朝、食事の配膳に来てくれた中居さんが使っていて少し不思議に思っていたところを、玲司さんが解説してくれたのだ。
特に福岡で使うものらしいから、中居さんも田川さんも、出身自体は福岡なのかも……って、ほんとに玲司さんって、なんでも知っているなあ。
「あのですね、うちの遠賀があんまりにも『本城社長はクールで表情も変わらん人やけど、怖がったらいけんよ。話はきちんと聞いてくれる人やけん』なんて言いよったんですよ。ちょうどその手水場で」
そう言って目線をそっちに向けてから微笑む。
「けど、そしたら遠賀が本城社長を見つけてですね。挨拶せんとって顔を見たらにこにこしとらすやないですか。あんな甘い目をして奥さん見つめてらっしゃる人なのに、社長、大げさですよ」
後半は遠賀社長に向けた言葉だった。遠賀社長は眼鏡のつるを持ってまじまじと玲司さんを見つめた。
「ああ、いやあ……結婚されて、雰囲気が随分変わられましたね」
「……お恥ずかしいところを」
玲司さんはちょっと照れているようだった。こういうのは珍しい。思わず観察してしまう。
「とてつもない甘々なカップルがいるなあ、と目をやったら本城社長が笑ってらっしゃったので……僕は幻覚を見たのかと固まってしまったんですよ」
苦笑する遠賀社長に、玲司さんも苦笑し返した。