鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 遠賀社長たちは、工場予定地が正式決定されるように祈りに来たらしい。

「当然、うちの売り上げもきたいできますからね」

 とのことだった。この神社は商売繁盛の神様でもあるのだった。
 結局、四人並んで参拝をする。

「あのご神木は、だいたい樹齢五百年くらいで。なんとあの家康が」

 なんて解説をおふたりから受けているときに、玲司さんがふらりとお守りの授与所のほうに行ったのが見えた。なにか欲しいお守りでもあったのかな?

 その後遠賀社長の車に同乗させもらうこととなり、予定地へ向かう。
 地権者ともおおむね話がついていたものの、一部の意見のすり合わせを玲司さん主体で行う。
 立地なんかは問題ないようだった。
 空港にも幹線道路一本で行けるし、他にも精密機械系大手の工場が進出していることもあり、住民の皆様からの反対も特にない。
 若い人が増えるからいい、と市の担担当者の方も笑顔だった。

「ただ物価の高騰が予想以上でして」

 人件費も含め、当初の予算を大幅にオーバーするとの見方で、現場で二の足を踏んでいる状態だった。

「ここで予算を渋るのは悪手です」

 資料をすでに読み込んでいた玲司さんの鶴の一声で増額が決定し、関係者一同胸を撫でおろした。
 その帰り。
 夕暮れに染まる空港のラウンジで飛行機を待っている私の手を、ふと玲司さんが握った。手の平には、なにか布の感覚。

「玲司さん?」
「……お返しだ」
「え?」

 なんのことだろう、と手を開く。そこにはかわいらしい桃色のお守りがあった。健康御守、と書いてある。

「……これって」

 さっきの神社のお守りだ。もしかして、さっき買いに行っていたのって、これ?

「あ、ありがとうございます……!」
「いや。以前、これをくれただろう?」

 玲司さんがスーツの内ポケットから取り出したのは、以前京都の神社で買ってプレゼントした健康お守りだ。……持ち歩いてくれていたんだ!
 スーツは玲司さんはたいてい自分でクリーニングに出してくれるので、内ポケットに入れて大切にしてくれていただなんて、知らなかった。

「嬉しいです……!」
「いや」

 そう言って玲司さんは目を優しく細め、さらりと私の髪を撫でた。甘えて擦り寄りたくなるのを我慢する。人前なので……って、さっき神社でもいちゃついていたわけではなかったと思うのに、いろいろバレてしまっていたなあ。
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