鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 誠司さんはそう言って「ちょっと座ろうか」と奥の事務室に案内してくれる。
 事務室といっても上品なソファや観葉植物があるちょっとラグジュアリーな空間だ。
 といっても、今は色々な資材がいっぱいで、ひっきりなしにスタッフさんや工事関係の人が出入りしていた。

「いやあすまないね、落ち着かなくってさ」
「いえ、お忙しいのに押しかけて」
「……確かに忙しいんだけどさ、別に玲司と呑んだりCM出るくらいの時間がとれないわけじゃない。CMなんて特にね、ブランドイメージの向上につながるし」
「え」

 私は首を傾げる。

「では、なぜ」

 内装工事の音が響く事務室内で、向かいのソファに座った誠司さんが腕を組み、ソファの背に身体を預ける。

「玲司に関わらないといけなくなるだろう」
「と、いうと?」
「……オレはね、玲司に嫌われている。……いや、もしかしたら」

 誠司さんは目を閉じて呟いた。怖くてたまらないって顔をしていた。

「蔑まれているかもしれない」
「蔑まれる? まさか、そんな」
「……そうだね。玲司はそんなやつだ。いつだって公平で冷静で」

 そう言ってから目を開き、誠司さんはぽつぽつと言葉を続ける。

「玲司は昔からそうだった。なにをやらせても文武両道で、オレにとっても自慢の弟だった。そんな弟の誇りでいられるように、オレは頑張っていた。……といってもそう大変じゃなかったよ。オレは多分生まれつき器用で要領がいい。だから」

 そう言ってから思い出すように目を細める。

「そんなオレに、玲司は懐いてくれた。どこに行くにも兄ちゃん兄ちゃんってついて歩いて」
「何それ詳しく」
「え?」
「こほん」

 最推しであり愛する玲司さんの長貴重幼少期かわいいエピソードについ欲求が口に出てしまった。

「失礼しました。どうぞ続きを」
「ん? いいのかな」

 不思議そうにしながらも誠司さんは口を開く。

「オレは玲司の自慢の兄でありたかった。だから――最初は、オレが会社を継ぐ気でいた。ずっとそう難しいこともない人生だった。会社の経営なんて大したことないって」

 そうして息を吐いた。

「でも。違った。オレはね、出社初日にトイレで吐いたんだ」

 私は目を丸くする。誠司さんの表情は変わらなかった。
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