鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「オレが逃げたせいであいつがどんな思いをしてきたか、血を吐く思いをしてきたかなんて想像もできない……にこにこしてオレのあとをついて回っていたあいつの、表情が抜けたような写真を見たとき死にたくなった」

 誠司さんはぱっと私の手を取る。

「心春さん。ありがとう。玲司があんなふうに表情に感情を出すのなんて、君の前だけだと思う。玲司を選んでくれて、本当に……」

 そう言って震えて泣く誠司さんをじっと見つめる。

「……その、玲司さんは怒ったりなんか」
「する」

 唐突に聞こえたのは、玲司さんの声だった。ぱっと顔を上げると、絶対零度と言わんばかりの空気を身にまとった玲司さんが立っていた。

「れ、玲司さん。どうしてここに」
「……俺の妻から手を離せ、兄貴」

 低い、怒りを内包した声だった。誠司さんがぱっと手を離し「玲司」と立ち上がった。

「いや、これは」
「どんな理由があろうと関係ない」

 息を吐き、玲司さんは私を抱きあげるるようにして腕に抱え込み誠司さんを睨みつけた。

「心春は譲らない。たとえ兄貴であろうと」
「……玲司にとって、心春さんは大切な人なんだね」
「心春は俺の心臓だ。誰にも渡さない。彼女がいないと俺はも息もできない」

 そう言う彼の声は、少し掠れていた。
 言葉ひとつひとつが衝撃的すぎて、うまく頭が回らない。どきどきと心臓がうるさい。でも伝えなきゃ!

「わ、私も」

 震える声を叱咤して、続ける。

「私も玲司さんがいないと、生きていけません……!」

 はっきりと目を合わせていうと、ようやく玲司さんは少し落ち着いたようだった。わずかに腕の力が緩む。さっと抜け出して、玲司さんの手を取る。

「き、聞いてください。あの」

 玲司さんに言わないとと思った。玲司さんと誠司さんは、すれ違ってしまったんだって。
 誠司さんが「少し任せる」とドアの向こうに叫んで、ドアを閉めた。それから頭を下げる。

「玲司、すまなかった。だが誤解だ」
「誤解ってなにがだ? 弟の妻とコソコソ会って」
「ち、違うんです」

 観念して、CMの話をする。玲司さんは眉を寄せた。

「それがどうして手なんか」
「それは……っ」

 誠司さんはうつむき、それからすとん、とソファに座った。
 そうしてうなだれ、掠れ切った声で「すまなかった」と玲司さんに告げる。
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