鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
「お前に全部押し付けて逃げたこと、合わせる顔がなくて逃げ回っていたこと」
「……どういうことだ」

 誠司さんは訥々と、けれど誠実に過去のことを語った。
 玲司さんが力を抜いてソファに座る。
 私はおろおろとしかできない。そんな私を見て誠司さんは笑う。

「それにしても……いつも冷静で公平な玲司が、心春さんのこととなるとあんなに冷静さを失うんだな」
「……しかたないだろ」

 玲司さんは前髪をかき上げた。

「そもそも、心春が俺に惚れてくれたのは……俺が『かっこいい』からだ」
「お、言うね」

 誠司さんがほんの少し肩の力を抜いた。

「謙遜は苦手だ。彼女好みの容姿であったり、経営の手腕であったり……きっとそんなところだろうと思う。だからずっとかっこつけてきた。……いま、最悪に格好悪いところを見せてしまっているけれど」

 そう言って私を見上げて寂しげに笑った。
 私はと言うと、疑問符で頭の中がいっぱいだった。

 ……あれ、私からの好意がなんだか変な感じで伝わってしまっている気がする。

「……だから。俺にとって、俺の上位互換は兄貴だ。だから、心春を……とられると、一瞬、ほんの一瞬だが思ってしまって、それで頭が真っ白になって」

 玲司さんらしくない、訥々とした喋り方に胸がぎゅっとなる。
 誤解とはいえ、辛い思いをさせてしまった。

「オレが玲司の上位互換? バカ言え、オレなんかとっくに越されてる」
「……え?」
「お前が成し遂げたことは、お前以外の誰にもできないことだ。……どうか、自分を誇ってくれないか。お前はオレにとって、誰よりも大切な、たった一人の弟なんだ」
「兄貴」

 そう言ったきり言葉を失った玲司さんに、私は強く伝えなきゃって思う。
 きちんと伝わっていないなら、その場で全力でぶつかっていかなきゃ。全力では走れない私だけれど、心だけは全速力であなたに向かいたい。

「玲司さん」

 私は彼の横に座り、きゅっと彼のシャツの袖を握る。

「私がかっこいいと思っているのは、玲司さん自身です。玲司さんの努力とか頑張りだとか、いろんな我慢だとかをして成し遂げたことに対しての『かっこいい』です」
「……心春」
「見てくれだとか、結果だとか、そんなものに惚れたわけではありません」

 伝わっているだろうか。

「私は本城玲司というひとりの人間に心底惚れたのです」

 生涯を捧げてもよいと思うくらいに。
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