鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 社長室のドアが開いていた。玲司さんが手招きしている。
 なにか急ぎだろうか、と小走りで向かうとドアが閉まるやいなや抱きしめられた。

「わ、な、なんですか」
「心春で癒されている」
「……なにかあったんですか」
「いや、ちょっと新原に罠を」
「罠?」

 玲司さんははっきりと「罠」だと明言した。不安になる。
 ……ここまできたら、さすがに覚悟ができた。
 乃愛ちゃんは本当に、いわゆる枕営業というものをしているのだろう。
 外に漏れればうちの会社だけでなく、お相手の会社にも大打撃だ。
 小さくため息をつくと、玲司さんは私から身体を離した。

「……なあ心春。君は真実を知りたいか?」
「え」

 玲司さんの精悍な顔を見上げ目を見開く。真実……というのは、乃愛ちゃんに関して?
 枕営業以外にもなにかるということ……?

「……玲司さんは私が知らないほうがいいと考えているのでしょう?」
「ああ」

 玲司さんははっきりと頷く。
 あの日と同じ瞳をしていると思った。
 土砂降りの日に、濡れて帰ってきた夜のこと。

「――けれど、君には知る権利がある。そう思った。知らせたくないのは、俺が君が傷つくところを見たくないだけだから」

 俺のエゴだから、と玲司さんは言って私の手を握る。

「どうする? 心春。きっと君はショックを受ける」
「……玲司さんが守ってくださるのでしょう?」

 私は微笑んだ。
 もし傷ついても、癒し慈しんでくださるのでしょう?

「それに――玲司さん。私は」

 私は胸を張り、彼を見上げてはっきりと告げた。

「私は雑草です。雑草は――いえ」

 玲司さんが目を瞠る。私は自信満々に笑ってみせた。

「私は強いのです!」

 あなたという大樹に守られて、私は前よりずっと強くなっているのです。






 玲司さんが言っていたとおり、数日中に乃愛ちゃんから連絡があった。
 ふたりきで話したいって。

『ああいう女は自慢してひけらかしたいタイプだからな』

 観察眼がすごいなあ、と私は素直に感嘆した。
 私は乃愛ちゃんの同級生だけれど、こんなにすぐに動くだなんて思ってもみなかったのだ。

 都内の、小さなバーで乃愛ちゃんと待ち合わせる。

「へえ。心春、こんなバーなんか知ってるんだ。社長に連れてきてもらったの?」

 乃愛ちゃんは個室のソファに座りながら私をうかがう。
 その胸元で揺れるのは綺麗なイエローのダイヤだ。
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