鉄仮面CEOの溺愛は待ったなし!~“妻業”始めたはずが、旦那様が甘やかし過剰です~
 西洋絵画では、ユダの衣服の色とされる。
 ……らしい。玲司さんの受け売りだ。ほんとにあの人はなんでも知っている。

 私の視線がそれに向かっているのに気が付いたらしい乃愛ちゃんは「ふふ」と自慢げに唇を歪めた。

「これ? 綺麗でしょ、ある人にもらったの」
「よ、よかったね」

 私はちゃんと笑えているだろうか。
 お酒が運ばれてきて、しばらくは雑談を続ける。主に乃愛ちゃんの自慢話だった。
 私は少しずつ悲しくなってくる。
 乃愛ちゃん、綺麗だし頭もいいのに、どうして枕営業なんか。
 きっと普通に頑張ったら、きちんと結果が出ただろう。どうして……。

「どうしたの心春。そんな沈んだ顔をして」
「あ、ご、ごめ」
「もしかして気が付いてたあ?」

 乃愛ちゃんは足を組みなおし、ネックレスに触れる。

「これ、あなたの旦那様からいただいたってこと」

 知ってる。
 どんどん悲しみが押し寄せる。

 玲司さんがそのネックレスを乃愛ちゃんにプレゼントしたことも、それにGPSが仕込んであることも知ってる。
 昨日営業先の部長さんと乃愛ちゃんがホテルにいたことを、私も一緒に確認したのだ。

 どうして、どうして、どうして。
 あのとき、私が怪我をしたとき、一番そばにいてくれたのは乃愛ちゃんだった。
 移動教室に手間取る私の荷物を率先して運んでくれた。
 たとえ、それが同情でも、たとえそれが――だったとしても!

「ごめんねえ。旦那さん、心春からとっちゃいそう」

 乃愛ちゃんは笑ってしゃべり続ける。
 お酒が入っているせいもあるだろう。つらつらと彼女は話し続ける。

「愛人の打診だったけどね……営業成績で先月賞をいただいたの。そのときに一目ぼれしたんですって。でも愛人で終わるような女じゃないのよ。絶対にあなたから奪う」
「っ、乃愛ちゃん」

 我慢しきれず、ぼたぼたと涙が零れ落ちてしまった。

 だめ。しゃべっちゃ、だめ。
 これは罠なんだよ。

 心で強くそう思ってしまう。
 強いつもりだったのに。
 でも全然だめだ。

 旧友を前に、心がぐらぐらと揺れていた。

 台風の日の竹林みたいだと思う。強く揺れて、葉と葉が触れ合ってがさがさうるさい。

「だいたい、あなたもう飽きられかけてるらしいじゃない。高校の時の怪我を理由にハイヒールさえ履けないんですって?耐えなさいよそれくらい、情けない」

 嘲る口調で言う彼女に、胸が痛くてたまらない。
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