無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く
第二章
午前に予定していた衣装、五着分の撮影は無事終了した。
昼休憩は現場でケータリングの弁当を食べ、そして午後は匠のインタビュー記事のため記者との会話風景の撮影に入る。
スケジュール通りに進み、すべての撮影が終わった頃には、窓から差し込む夕陽がスタジオ内を照らしていた。
そして十七時、本日の撮影はこれにて終了したのだが――。
一旦事務所に戻って機材を片付けた咲子たちカメラ組は今、とある高級焼肉店の前に来ている。
入口の暖簾をくぐってガララッと扉を開けると、中から店員の声が飛んできた。
「いらっしゃいませー!」
「真中で予約していたと思うんだけど」
桂木がそう説明すると、すぐに状況を理解した店員は「お待ちしておりました!」と言って階段を使い二階へと案内する。
たしか他のスタッフたちは、撮影現場から真っ直ぐこの焼肉店に向かう話になっていた。
あれから一時間経っているので、まあまあ盛り上がっている頃だろう。
咲子がそんなふうに思いながら、皆が待つ宴会用の個室に到着してその引き戸を開けた。
「お、きたきたカメラ組〜!」
四人がけの焼肉用テーブルが横一列にずらりと並び、人数分の椅子が用意されている。
二十人ほどが収容できる個室で、本日の撮影スタッフ全員が飲み会に参加したようだ。
他のスタッフたちもすでに何杯も飲んでいる様子で、ほんのり頬が赤らんでいる。
その中心に編集長の真中が座っていて、カメラ組二人の到着に気づくと手招きしてきた。
「咲子ちゃ〜ん! こっちこっち!」
「お、お待たせしましたー」
誘われるがまま、真中の正面に座った桂木と咲子。
そして咲子がふうと一息つこうとした時、何気なく個室の一番奥に視線をやる。
すると、一際超人並みのオーラを放っている人物が一人、女性スタッフに囲まれて座っていた。
(わ、雪島さんも参加してる⁉︎)
無表情でハイボールを飲んでいる匠は、はたから見ればどこかのハーレム王国の王様のよう。
そのハーレムを作っている女性スタッフたちの一人に、匠狙いを窺わせる例のヘアメイク・沢田もいて、咲子は思わず視線を逸らす。
変な言いがかりをつけられるのも、巻き込まれるのも嫌。
そう思った咲子は、ハーレムには触れずに桂木とともにビールを注文した。