無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く



「待って」
「……っえ?」


 突然肩に触れられ振り向いた咲子は、階段を下りてきた匠に呼び止められる。
 今日一日、カメラを向けられた以外はほぼ無表情だった匠から、少し焦っている様子を感じた。
 なぜ雪島匠本人が、自分に声をかけてきたのか。
 予想だにしなかったできことに、咲子が声を発せずにいた。
 すると、匠の方からポツリとその訳を述べてきた。


「俺も外の空気吸いたくて」
「え……あ! ……そ、そうでしたか」
「コンビニ、一緒に行ってもいい?」
「ん……え⁉︎」


 思わず大きな声を出しそうになり、咲子はグッと喉を抑え込んだ。
 これから桂木のタバコを買いに、コンビニへ行こうとしている咲子。
 それに同行したいと、匠が申し出てきたからだ。
 外の空気を吸いたいなら、何もコンビニまで行かなくても一人でできる事なのに。
 そんな疑問が浮かんだ咲子だが、一番の懸念点は――。
 自分が、人気モデルの隣にして街中を歩く勇気が、一ミリもないということ。


「……わ、私と歩いていて顔バレしたら、まずいと思います」
「まずい?」


 匠には真意が伝わってないようで、軽く首を傾げるだけだった。
 冴えない自分と、人気モデルとのツーショットなんて誰も望んでいない。
 それに、週刊誌の記者が匠を張り込んでいたら、写真を撮られて有る事無い事言われるかもしれない。
 そんな事になったら迷惑がかかってしまうと考えて、咲子は匠の申し出を断るのが賢明と判断した。


『匠くんは無自覚に女性を誘惑して、何人もその気にさせる悪い男なのよ』


 さらには、撮影前に真中が言っていたセリフを思い出して。
 今の場面はそれに該当すると直感し、それとなく教えてあげようとする。


「それに今のような無自覚な発言も、私でなければ勘違いしちゃいますよ〜」


 笑顔を交えながら軽いノリで伝えた咲子は、自分で「よくやった」と思っていた。
 無自覚ならば、教えてあげないと気づけない。
 だから、匠のためを思えばこそなのだと咲子は信じていた。



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