無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く



 しかし、それを聞いた匠はというと。
 切れ長の目を少し細めて、凛々しい眉が困惑したように下がった。
 明らかにテンションが落ちた雰囲気を纏う匠に、咲子は「雪島さん?」と呼びかける。
 すると、帰ってきた言葉は――。


「俺、今の発言は自覚ありますよ」
「……ん?」
「口実作って、長戸さんと二人きりで話したいという意味なんだけど」


 一瞬、聞き違いだと思って変に微笑みかけてしまった咲子。
 少しだけ時が止まり、じわじわと思考回路が現実を突きつけてきた。
 匠の言葉を理解した咲子が、カッと顔を赤くして驚きを爆発される。


「……っええ⁉︎」


 と同時に、後ろに下がった咲子の片足が階段の踊り場から外れてしまった。
 ガクンと体が落ちた咲子がバランスを崩したのを見て、匠は咄嗟に「あぶない!」と言って腕を伸ばす。
 それはしっかりと細い腰に回され、なんとか咲子を支える事に成功した。


「……っ大丈夫?」
「は、はい……」


 程よく厚みのある胸板に顔を埋めて、匠の服の袖をギュッと握る咲子の緊張はピークに達する。
 頭上から降ってきた匠の心配する声かけに、咲子は返事をするのがやっとだった。
 長く逞しい片腕に抱き締められた体は、助けるためとはいえ不本意な形で密着していた。
 すると、そんな二人を目撃した人物が、ナイフのような言葉を投げてきたのだ。


「……やっぱり匠さんって最低ですね」


 言われて匠と咲子が顔を上げると、匠を追いかけてやってきたヘアメイクの沢田が立っていた。
 明らかに攻撃的な鋭い視線を送り、匠と咲子を見下ろしてくる。
 そして、高圧的で不機嫌な態度のまま口を開いた。


「私、この後二人で抜けましょうってお誘いしましたよね?」
「……俺は賛同していないけど」


 匠の言葉に、沢田は恥をかいたような表情で頬を赤らめ、カッと目を見開いた。


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