無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く
匠と二人きりで店を出ようとしていた沢田の目論見が、咲子にも伝わってしまう。
ただ沢田の、匠に対する好意を考えれば納得のいく話だった。
しかし匠の返答を聞いて、咲子はいたたまれない気持ちを抱く。
(……これ、私が聞いたらまずいんじゃ……)
さらには、沢田が好意を寄せる匠に、現在咲子は抱き抱えられている。
この状況は確実に沢田の逆鱗に触れ、敵意を向けられてもおかしくないと考えた。
すると、匠が自分に興味がないんだと知った沢田が、じわりと瞳を潤ませて言い訳をしてくる。
「その顔で誰にでも優しいとか反則だし、その気にさせといて急に冷たく突き放すなんて!」
沢田の訴えもなんとなくわかるから、同情してしまう咲子。
しかし、この結果は匠だけが悪い案件ではないはず。
咲子が複雑な心境を抱えていると、匠は真剣な眼差しを沢田に向ける。
「……勘違いさせたなら謝る。だけど、俺ははじめから君に好意はないから」
謝罪の言葉と共に、はっきりと沢田の気持ちには応えられないと伝えた匠。
じっと視線を合わせる両者。
ただ、咲子だけは心配そうな瞳を匠に向けていた。
(雪島さんが優しいのは素敵なことなのに、どうして謝らないといけないんだろう……)
沢田にとっては思わせぶりだったのかもしれない。
だけど、匠のその優しさは自然と出てくるものなんだと、咲子は理解していた。
その気になったのは沢田の自由で、それに応えるか否かは匠の自由。
勘違いのおかげで恋に発展することもあれば、勘違いが理由で恋が終わることだってある。
誰も悪くない。そんな気がして咲子は胸を痛めていた。