無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く
同じ大学出身のフォトグラファーである、大先輩の桂木。
その個人事務所で、咲子は現在アシスタント四年目として勉強中だ。
フォトグラファーになるのを夢見て、都内の大学を卒業してすぐに桂木のアシスタントとなる。
一人前のフォトグラファーになるには、最低でも五年はアシスタントとして修行をしたい。
そう心の中で決めて、桂木のもとでようやく四年目を迎えたけれど、まだまだ現場で叱られることは多い。
それでも咲子がアシスタントとして頑張っていられるのは、“撮る”のが好きだから。
独り立ちを目指し、いつか“心”を映し出せるフォトグラファーになりたい。そう思っている。
すると、運転中の桂木が咲子に問いかけてきた。
「今日撮影するモデル、誰か知ってるか?」
「え? はい。雪島匠さんですよね」
抱えていたリュックから、彼が表紙を飾る雑誌を手にして咲子が答えた。
一年前、男性ファッション誌に突如現れたモデル。雪島匠、二十九歳。
切れ長の目は凛々しく、くっきりとした二重瞼が美しさを引き立たせている。
百八十二センチの高身長と、センターパートの黒髪が男らしさと色気を強調し、存在そのものに品があって美しい。
さらには繊維業界の大手会社社長の息子という噂もあり、それが本当ならば正真正銘の御曹司だ。
天が二物を与えてしまったような、今人気急上昇中の男性モデル。
「桂木さん。私が行けなかった昨日の打ち合わせで雪島さんに会ったんですよね?」
「ああ。けど、俺はあいつ嫌いだ」
「えー……、どうしたんですか急に……」
運転している桂木が、冷めた瞳で匠のことを“嫌い”と宣言した。
これから仕事を一緒にする被写体だというのに、気まずいことにならないか咲子は心配する。
と言っても桂木もプロのフォトグラファーだから、険悪なムードを作り出すことはしないだろう。
そう思っていると、桂木が“嫌い”な理由を語りはじめた。