無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く
第三章
道中、匠は真中に電話をして、二人が焼肉店には戻らないことを告げていた。
桂木のタバコを買い損ねている咲子は、怒りの電話がかかってこないかと少し怯えていたが――。
真中が桂木にうまく伝えてくれたのか、咲子のスマホが鳴ることはなかった。
そして焼肉店から一キロほど離れた場所にある、八階建て商業ビルの路地裏にやってきた二人。
レンガ調の壁と、黒い扉にスポットライトが照らされているが、何の店かはわからなかった。
「ここは……?」
「俺の友人が経営してるバーなんだ」
「へぇ、おしゃれなお店ですね!」
その隠れ家的な雰囲気に惹かれた咲子が、ワクワクと瞳を輝かせている。
ゆっくりと扉を開いた匠は今までの経緯を考えて、念の為説明を添えた。
「この店、あまり周知されていないから客足が少なくて」
「なるほど。でしたら雪島さんも安心して飲めますね」
周囲の目を気にすることなく、匠がゆっくりとお酒を楽しめることに咲子が安堵した。
そんな様子を見た匠の心が、実はずっと疼いているのを咲子は知らない。
「……それだけじゃないけど」
「? そうですか?」
短く呟くだけで、匠は詳細を語らなかった。
咲子は不思議そうに見つめるのみで、二人はそのまま店の中に入った。
薄暗くムーディーな雰囲気の中に、カウンターと六つの席、そして二つのテーブル席が確認できる。
省スペースながらも、全体的に趣のある空間が広がっていて、咲子は一目で気に入った。
すると、カウンターにいた一人の男性バーテンダーが二人を出迎える。