無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く
「だってお前、いつの間にか人気モデルなんかになったんだから、彼女の一人や二人連れてきてくれるもんだと……」
「俺は客寄せパンダかよ」
匠があきれたように言うと、和也は至って真面目な表情で「お前をパンダだと思ったことは一度もない」と返答していた。
なんとなく、今の会話から和也が天然さんであることがわかって、咲子が頬を緩ませる。
しかし、その様子を見た匠は、複雑な感情を抱いた。彼女の一人や二人の話題に対して、咲子がやきもちを妬いているように見えなかったから。
「……誰でもいいわけじゃないし」
「じゃあ長戸さんはなんで連れてきたんだよー?」
何か言いたげな顔で、ニヤニヤしている和也。
その話題に触れるのも烏滸がましいと思っていたより咲子も、胸の中では同じ質問を抱えていた。
自分はなぜ今、匠の友人のバーにいて、プライベートなことを聞かされているのだろうと。
その時、匠は何の恥じらいもなく、隣に座る咲子の目を見て言った。
「長戸さんは、俺が彼女にしたい人なんだよ」
「っ……雪島さん⁉︎」
驚愕する咲子が、目をまん丸にして慌てふためいている。
その正直すぎる反応を見て、匠は自然と目尻を下げた。
昔から変わっていない、咲子の真っ直ぐな心と行動。それを好意的に思っていた匠は、ついに打ち明けたのだ。
「実は、一年前に長戸さんを見たことがあったんだ」
「え? 私を、ですか?」
「俺がモデル活動を開始する直前、真中さんに連れられてスタジオを見学した時――」
言いながら、当時を思い出していた匠の目の前に、和也が用意したウイスキーのグラスが置かれる。
そして咲子の前にはもちろん、ミモザが並べられた。