無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く



「だから、今日の俺が長戸さんに話したことは、冗談でも牽制でもなくて本心だよ」


 匠の本心が明かされて、咲子は今まで聞かされていたセリフを思い出していく。
『今のは自覚ありますよ』
『俺が、応えてもらいたい側だから』
 これらが全て、匠が咲子に対する本心だと理解した途端、咲子の顔が真っ赤に染まった。


「あの、え?」
「わかってもらえた?」
「……私、どうしたらいいんですか……!」


 軽くパニックを起こしている咲子は、人生で初めてのストレートな告白に微かに涙目になる。
 すると、ともに話を聞いていた和也が笑いながら声をかけた。


「とりあえず今は“あざーす”でいいんじゃない?」
「ええ……?」
「だって、今すぐ返事できないでしょ」


 たしかに和也の言う通り、匠の気持ちを知ったからといってすぐにどうこうなるなんて、咲子にはできない。
 それは匠も充分理解をしていたようで、自然と頬を緩ませながら優しい瞳を向けてきた。


「長戸さんにとっては今日が初めましてだから、ゆっくり俺のこと知ってもらえればそれでいいよ」
「雪島さん……」
「ただ、俺が“悪い男”って噂は、どうか誤解だとをわかって欲しくて……」


 と話した途端、自分の情けない部分が出たと心配した匠が、ほんのりと頬を赤らめる。


 だけど、咲子には初めから匠のまっすぐな優しさはわかっていた。
 それに、今もこうして咲子の気持ちを気遣う心が伝わってくる。
 これでは、意識していなかった咲子でも、胸の奥で高鳴りを覚えるに決まっている。


(どうしよう……雪島さんのこと、もっと知りたいって思いはじめてる)


 そんな心構えに変わった咲子は、匠に向かって柔らかな笑みを浮かべ、こくりと頷いた。
 この時、匠の心が一気に咲子への愛で溢れたのだが、なんとか自制を働かせて質問する。


「……長戸さん、明日休み?」
「はい。雪島さんは?」
「俺も。じゃあこれから、二人きりの親睦会をはじめようか」


 グラスを掲げて、匠は頬を緩ませている。
 それに応えるように咲子もグラスを持ち、そっと乾杯した。
 カウンターでは和也が「俺もいるぞー」とさりげなく声を漏らすが、匠は聞こえないふりをする。
 こうして咲子と匠の関係は、ゆっくりと始まった――。


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