無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く



「……んー……」


 どれほどの時間が経ったのかわからない中、咲子が重い瞼を開けた。
 バーのカウンターに突っ伏していた上体をそっと起こし、寝ぼけた思考も呼び起こす。


(……あれ、寝てた?)


 たしか、あのあとお酒が進み楽しく三人で飲んでいた。
 匠を昔からよく知る友人の和也は、彼の無自覚な優しさは昔からだと教えてくれた。
 ただ、いい加減な人間ではないし、友人思いのいいやつだとも言っていた。
 それを聞いた咲子は、ますます匠への信頼度が増したことを覚えている。
 撮影前に、咲子の荷物を持ってくれた匠も、好意を寄せる匠も。
 すべてが匠の真の姿であると、答え合わせができた気持ちになっていた。


(えーと、それから……)


 楽しい時間は深夜になっても続き、どうやら飲みすぎた咲子はそのまま眠ってしまったらしい。
 自分の失態を理解して、額を押さえながらため息をつく。
 そして何気なく隣に視線を向けると、同じくカウンターに突っ伏して無防備に眠る匠がいた。


「っ!!」


 危うくカウンター席から落ちてしまいそうになるほど、驚いた咲子。
 二人仲良く眠っていたなんて……と、その異様な光景を想像して反省した。
 だけど、あの匠の寝顔なんてそうそう見れるものでもない。
 興味がそそられた咲子は、もう一度、今度はじっくりと匠の寝顔を眺めてみた。


(……本当に、こんなかっこいい人が、私のこと……?)


 長い睫毛に影がかかり、彫刻のような鼻筋がまた絵になるほど美しい。
 そして、女性に対して誤解を生んでしまうものの、分け隔てなく人に優しくなれる人柄。
 そんな大人気モデルの匠が、本当に自分に好意を抱いているのか。
 信じがたい気持ちもゼロではない咲子だけど、不思議と匠を信じてみたいと思っていた。


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