無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く



「打ち合わせ開始までの間。俺と雪島匠は同じ会議室で待機していたんだが、変わるがわる女性スタッフが挨拶に来てよ」
「……気まずいですね」
「あいつはその度に、数々の貢ぎ物やら差し入れを惜しみなく受け取っていたぞ」


 その詳細を聞くと、どうやら匠はメンズ化粧品や香水、演奏会や演劇のペアチケットの他。
 カフェのドリンクや手作りクッキーまで、幅広い貢ぎ物を受け取っていたらしい。
 そんな話を聞かさていた咲子は、手元の雑誌表紙に視線を落とした。
 こんな魅力的な男性が目の前にいたら、お近づきになりたい女性スタッフたちの気持ちも少しわかる。
 しかし桂木は、女性スタッフたちにチヤホヤされている匠に怒っているのではなかった。


「スタッフが出ていった後、受け取ったそれらを俺に“要ります?”って聞いてきたんだよ」
「え? それって……」


 きっと、女性スタッフたちが匠のことを想って用意した品々。
 それを一度は受け取ったにもかかわらず、他人の桂木に横流ししてしまうなんて。


「腹立つだろ⁉︎ 香水はもらったけど手作りクッキーはさすがに食えねぇよ!」
「……香水、もらったんですね……」
「高級なやつだったんだよっ」


 言い訳をする桂木に、咲子は気づかれない程度の冷ややかな視線を送った。
 しかし、それよりも問題は匠のほうだ。
 不要なら……女性スタッフたちの好意に応えられないのなら、はじめから受け取らなければいいのに。
 まるで女性スタッフの気持ちを弄ぶような匠の行動は、咲子にも疑問が残る。
 そんな罪深い魔性の男・雪島匠と、これから初対面を迎えるというのに。


(もしかすると、雪島さんはスタッフさんたちの好意に気づいていない?)


 それが、女性スタッフたちの興味関心の表れだったこと、好意的なアプローチだったことを。
 もしかして、彼はかなり鈍感な人なのかもしれない。と咲子がいろんな思考を巡らせた時。
 もう間も無く、目的地に到着することに気がついて気持ちを切り替えた。



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