無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く
“咲子がプロのフォトグラファーになる夢を叶えたら、一番に匠を撮る”
(そう、約束してくれたんだけどなぁ……)
プロのフォトグラファーになり、胸を張れる自分になったとき。
レンズ越しに映し出される匠の心に触れて、自分の正直な気持ちを伝えたい。
そう思っていた咲子は、叶わなくなった約束を思い寂しい気持ちを抱く。
すると真中が、良かれと思って提案してきた。
「返信くるかはわからないけれど……」
「え……?」
「匠くんの連絡先、咲子ちゃんに教えていいか本人に確認しようか?」
元気のない咲子を察して、真中は二人で直接連絡を取り合った方が良いと思った。
しかし、複雑な心境の咲子の答えはノーだった。
「……いえ、きっとお忙しいでしょうし、それに……」
“私のことなんて、一時的な気の迷いだったのかもしれない”
時間が経つにつれて、良くない思考が頭の中を駆け巡る。
本当は匠を信じたいのに、噂通りの悪い男だったのでは?
その存在が遠のくにつれて、余計な情報だけを残して咲子の心が不安定になっていった。
かといって、自分から会いに行けるほど自信も勇気もない。
「それに私は、プロのフォトグラファーになるために今を生きていますから」
『咲子ちゃん……』
それしかないんだと言い聞かせて、咲子は無理に笑顔を作り改めて宣言した。
空元気を思わせる声色を聞いて、真中も見守ることしかできないと悟る。
そうして、月日だけが流れていった。