無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く
国内の繊維製品業界の大手として常に認知されている、“フィーブホールディングス”。
誰もが一度は聞いたことのある、繊維製品の開発から製造、卸売までを行う大きな会社だ。
その本社ビルの前までやってきた咲子は、空に向かって聳え立つ建物を見上げていた。
(……ここ?)
咲子は戸惑いながら、もう一度スマホに届いたメールを確認する。
そこには見知らぬメールアドレスから送られてきた、一通のメッセージ。
文面には、ずっと連絡手段のなかった匠の名前があった。
【咲子。フィーブホールディングス本社に来てほしい。雪島匠】
(これって、やっぱりあの匠さんだよね?)
しかし、どうしてフィーブホールディングスへ来るよう指示があったのか。
そこで咲子は、匠が繊維業界の大手会社社長の息子という噂を思い出す。
実際に確かめたことはなかったけれど、匠が本当にフィーブホールディングスの社長の息子ならば。
ここに呼ばれた理由も、少しだけ納得できる。
(……噂が本当なら、今はここで働いているのかな?)
だとしたら、これから匠に会える可能性が浮上してきた。
不安と期待が高まる中、咲子は一階にある広々としたオフィスエントランスへと入っていった。
受付にいた女性に声をかけると「お待ちしておりました」と言われて、ゲスト用のIDカードを渡される。
まるで咲子がここに来ることを、すでに周知されていたような対応だった。