無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く
驚く咲子は、受付にいた女性に案内されるまま、エレベーターに乗って最上階の十五階までやってきた。
長い通路を進み、やってきたのは社長室と書かれたドアの前。
「では、私はここで失礼いたします」
「え? あ、あの……」
受付の女性は咲子を置いて帰っていってしまい、一人ドアの前にポツン取り残された。
徐々に緊張感が高まってきた咲子は、いよいよ社長室のドアをノックする。
すると室内から「はい」という男性の返事が聞こえてきて、咲子の心臓がドクンと跳ねた。
それは、確かに聞き覚えのある優しい声だったから。
「……失礼します」
ゆっくりとドアを開けると、壁一面に広がる大きな窓と、それに向き合っていた黒スーツに身を包む男性。
その背中が視界に入り、咲子はどこか懐かしさを覚えた。
後ろ姿でもわかる。スラリとしたシルエットは、まさしく雪島匠だと確信した。
咲子がそう思ったと同時に、男性もゆっくりと振り返る。
「咲子、久しぶりだな」
「っ匠さん……!」
一年振りに会う匠は、アップバンクにした髪と高級そうなスーツを着ていた。
すっかり落ち着いた雰囲気を纏う匠だけど、優しい微笑みは変わらない。
驚きと喜びで、咲子も言葉を失っていた。
それを察して、匠がゆっくりと歩み寄ってくる。
「今まで、連絡できなくてごめん……」
「……いえ……それよりも、これは一体……」
この場に呼ばれたことと、匠の現在を知りたかった咲子は、不安げな表情で尋ねた。
すると、そっと咲子の手を取った匠は、来客用の黒い革製ソファに咲子を座らせる。
その隣に自分も腰を下ろして、この一年の出来事の説明をはじめた。