無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く



 社長室で、一際存在感を放つ木目調のエグゼクティブデスクとチェア。
 そこに腰掛けてスタンバイする匠は、撮影準備で忙しい咲子をじっと見つめていた。
 その熱い視線に気づかない咲子は、一眼レフカメラのレンズを取り付けている。
 そして匠に向かってカメラを構えてファインダーを覗き込んだとき、ようやく目が合った。


「な、なんだか照れますね」
「そう? 俺はすごく楽しい」
「っ……」


 余裕の笑みを浮かべる匠に、翻弄される咲子が咳払いをした。
 気を取り直して、ゆっくりとピント調整をしながら、一つ気になっていタコとを匠に尋ねる。


「あの、匠さんのお父様の容体はその後……」
「ああ、半年ほど入院したけど今はもうすっかり元気だよ」
「そうですか! 良かったです」


 安堵の表情で匠の父の無事を喜んだ咲子に、匠はさらに詳細を聞かせてあげた。
 まだまだ社長として、仕事をしたかったはずの父。
 しかし、匠が社長代理をなんとかこなせていると知るや否や、あっさりとその座を明け渡したらしい。
 そして、自分はやっと会長になれると喜んでいたという。
 そんな話を聞いて、なんだか愉快なお父様だなぁと咲子が想像していると――。


「近いうち会わせたいから、覚悟しておいて」
「え……ええ⁉︎」


 その意味深な発言に、手元が狂いそうになった咲子。
 なんとか持ちこたえて、大事な商売道具の一眼レフカメラは落とさずに済んだ。
 冷静さを取り戻し、カメラの液晶モニターに視線を向ける。


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