無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く



 そこに映る匠の姿は、モデルとして活躍していた時より少し落ち着いていて。
 だけど、その瞳には責任者としての威厳と頼もしい光が映っていた。
 『いつか“心”を映し出せるフォトグラファーになりたい』
 咲子がフォトグラファーを目指していた理由が、頭の中で再生される。


「咲子」
「……はい」


 不意に名前を呼ばれて、咲子が液晶モニターから視線を外して匠を見た。
 すると、突然匠の口から告げられる。


「好きだよ」
「っ……!」
「一年間会えなかった分、これからしっかり注いでいくから」


 溢れんばかりのこの愛を。というような瞳で、匠がじっと咲子を見つめてきた。
 そして、目を丸くして息を呑む咲子を愛おしく思い、自然と目尻を下げて微笑む。
 その柔らかな匠の表情は、きっと自分だけが導き出せるものに違いない。
 そうであって欲しいと願った咲子が、おもむろにシャッターを切る。

 一瞬一瞬の、奇跡のような一枚に出会うために。

 プロのフォトグラファーとして、咲子が初めて撮影した写真には――。
 無自覚で罪深い“悪い男”であり“愛しい男”が写っていた。




 fin.



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