無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く
一階にある撮影スタジオ。
白い壁と大きな窓、木目調の床とテーブルが設置され、カフェをコンセプトにしている貸切可能の撮影スタジオだ。
咲子たちが到着すると、すでに現場のディレクターやスタイリストなどの裏方スタッフが集合していた。
集合時間の朝九時より前に到着していたらしく、せっせと撮影準備を始めている。
本日の撮影スタッフは全部で十五人ほどで、咲子はほとんど初対面の人ばかりだった。
すると、匠が再び低い声で咲子に声をかける。
「ここに置いていい?」
「はいっ、あの、ありがとうございました」
邪魔にならないよう、スタジオの隅に荷物を置いてくれた匠。
その意図を汲み取って、咲子が勢いよく頭を下げお礼の言葉を述べる。
しかし頭を上げた咲子が見た匠の表情は、変わらず無表情。その感情までは、残念ながら読み取ることができなかった。
不機嫌にさせていたらどうしようと、咲子はじわじわ戸惑いを覚える。
そんな二人の元に、女性編集長の真中が駆け寄ってきた。
「あら、匠くん早いわね! おはよう」
「おはようございます」
真中は親しげに匠へと声をかけ、匠も素直に挨拶を交わした。
そんな中、咲子は本日の現場で唯一の顔見知りである真中と会い、安堵の表情を浮かべた。
今回撮影するファッション誌の出版社に勤めている真中は、栗色のロングヘアを緩く巻き、赤いセットアップスーツを身に纏う。
さらには桂木と同じ大学の同期だと聞いているが、咲子は毎回会うたびに事実確認してしまいたくなる。