無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く
なぜなら、いつも華やかな装いとメイクで美しい真中が、とても桂木と同い年の四十五歳には見えないからだ。
「咲子ちゃんもおはよう」
「おはようございます! 今日もよろしくお願いします」
「昨日の打ち合わせ、あなたもくると思ってたわ」
真中が残念そうに眉を下げて話すと、咲子は苦笑いで応えた。
撮影前日は、構図やイメージの擦り合わせのため事前に打ち合わせをする。
本当は咲子も昨日の打ち合わせには参加予定だったのだが……。
「事務作業が残っていたので、事務所に篭っていました……」
「また桂木の仕事手伝わされてるの? まったくあいつ、何度注意しても直らないわね」
個人事務所を立ち上げた桂木だけど、事務作業は苦手なようで。
後回しにした挙句、昨日のように咲子に丸投げするなんてこともしばしば。
ただ、大学同期の真中がこうして外部のフォトグラファーである桂木に仕事を依頼するのは。
独立して事務所を持った彼を、応援する意味も込めていた。
「堪忍袋の緒が切れたら私に相談するのよ?」
「あはは、ありがとうございます」
真中の気遣いに感謝して、咲子がにこりを笑みを浮かべた。
すると、真中は思い出したように「ところであなたたち初対面よね?」と言って、匠と咲子を交互に見た。
そういえば、ちゃんとした自己紹介をしていなかったことを思い出す咲子。
匠のことは雑誌を見て一方的に知っているものの、咲子がまだ何者かを知らせていなかった。