無自覚な大人気モデルは、私だけに本気の愛を囁く



「あ、すみません! カメラアシスタントの長戸咲子と申します」
「……雪島匠です。よろしくお願いします」
「存じておりました。よろしくお願いします」


 咲子が笑顔で自己紹介をすると、匠も丁寧に名乗る。
 そして互いにぺこりと頭を下げるも、やはり匠に笑顔はない。
 ただ、先ほど荷物運びでお世話になった咲子は、少しだけ彼の人となりが見えてきた気がしていた。
 あまり感情を表に出さない人だけど、優しい心の持ち主であることが言動からみえる。
 その時、真中はこそっと咲子に耳打ちしてきたのだ。


「気をつけてね。匠くんは無自覚に女性を誘惑して、何人もその気にさせる悪い男だから」
「え……ええ⁉︎」
「ちょっと、やめてくださいよ真中さん」


 真中の言葉を聞き咲子が目を見開いて驚いていると、匠は少し困った顔をした。
 初めて感情が読み取れた表情を目の当たりにして、その一瞬だけ咲子は嬉しさを覚える。
 しかし、やはり気になるのは真中の話していた“悪い男”の詳細。


「私は昔から匠くんのこと知ってるから慣れたけど。このルックスでみんなに優しいし、分け隔てないから。勘違いさせちゃうのよね〜」
「別に俺はそんなつもりは……。ただ、いつの間にか好意を持たれていただけで、断るのも疲れるんですよ」


 女性を勘違いさせてしまうことは自覚しているらしい匠が、首根をかきながら本当に困惑していた。
 その様子を見て、真中の話は本当なんだろうなと思った咲子は妙に納得する。
 先ほど、さりげなく荷物運びを手伝ってくれた姿を思い出して、心当たりがすでにあったから。


「咲子ちゃん聞いた? モテる魔性の男は言うことが違うわね。あなたも“匠マジック”に気をつけてね」
「マジック……でも私はそのへん大丈夫です。仕事で忙しく、それどころでは……」


 匠が無自覚に女性を誘惑している現状を、“匠マジック”と称した真中。
 しかし咲子は自信満々に、匠マジックが効かないことを笑顔で宣言する。



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